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居合スピリット、真剣で体感 発祥の地に外国人招く 山形県村山市がプログラム作成

2018/12/25 日本経済新聞 朝刊

畳筒を試し斬りするフィリップさん(右、山形県村山市の居合振武館)

居合道発祥の地、山形県村山市がサムライ体験で外国人観光客を呼び込み始めた。真剣で試し斬りできる本物志向が売りで、忍者体験のようなエンターテインメントとは一線を画する。同市は戦国時代に地元で生まれた居合道創始者をまつる神社もある愛好者の聖地。インバウンドでも、閃光(せんこう)一撃となるか。

真っすぐに構えた真剣を振り下ろすと、畳筒がスパッと真っ二つに――。村山市が今秋、居合振武館の道場で開いた体験会では、習ったばかりの参加者が相次ぎ試し斬りに成功。仙台市のフランス語教師、フィリップ・ブラツェさん(55)は「日本の文化を深く感じられる最高の体験。観光客に来てもらういいアイデアだ」と絶賛した。

「居合道発祥の地でサムライ体験」は2年がかりで準備してきた体験プログラムだ。基本の型を習い、試し斬りをする「居合抜刀術サムライ体験」は1人1万2000円、地元特産のソバなどの昼食付き1日プランは同3万円など全4コースを用意した。

地域資源をインバウンドに生かす市の検討会議でアイデアが浮上。会議参加者で観光プラン作りに携わるアイサイト(山形市)社長の馬場誠さん(58)は「発祥の地を世界に発信できる」と考え、安全や指導者の確保など調整を進めてきた。

サムライ体験といえども、手軽さより本物であることを重視している(村山市)

講師は地元の林崎居合道伝承会の幹部と、抜刀道家の阿部吉宏氏。地元の居合道ではショー的な要素のある試し斬りはやらないが、「居合道の型だけでは集客が難しい」(馬場さん)とみて、山形市の道場で試し斬りする阿部氏を招いた。外部から招くことに異論もあったが、「理解を深めるのに2年をかけた」(馬場さん)という。

武道で観光客を集めることに、伝承会副会長の斎藤隆六段(66)は「チャンバラではなく基本の型を教えるものなので問題はない」と判断。市の副市長も務めた経験から活性化の必要性は痛感しており、「海外を含めて多くの人に魅力を知ってほしい」と期待する。

村山市のサムライ体験は着替えに便利な面ファスナー付きの袴(はかま)や模擬刀を用意している。それでも、各地の観光施設で人気の忍者体験のように手軽に参加するのは難しいが、「事故の恐れもあるので、ある程度の金額を出してもいいと真剣に取り組む人を対象にする」(村山市商工観光課)という。

居合道の祖・林崎甚助源重信をまつる居合神社(山形県村山市)

国は2020年の東京五輪を見据えてスポーツツーリズムの振興に取り組むなかで武道ツーリズムを提唱している。スポーツ庁は「日本でしか体験できないスポーツと文化が融合した希少性の高いツーリズム」と定義。「観光事業者の関心も高く、各地の事例を世界へ発信していく」という。

先進地の沖縄県は17年、沖縄空手案内センターを設置。選任のコーディネーターが体験希望者を町の道場に紹介し、初年度は354人が利用した。「なぎなたの聖地」といわれる兵庫県伊丹市は今年初めに紹介映像と体験プログラムを作成。合気道の開祖が修練し、合気神社がある茨城県笠間市も「海外から愛好者が多数訪れている」といい、さらなる情報発信を検討中だ。

もっとも、五輪種目になった空手はともかく、「プログラムを作ったが、実績はほとんどない」(伊丹市)など、知名度向上は大きな課題。居合道プログラムを主導した馬場さんは「ここにしかない素材。5年、10年かければ必ず広がっていく」と期待している。

(浅山章)

[日本経済新聞朝刊2018年12月1日付を再構成]

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