「ゴーン問題」機に見直せ 日本の報酬メンタリティーマーサージャパン 井上康晴プリンシパルに聞く

では報酬水準はどのように決まるのか。一般的に役員報酬は(1)基本報酬(固定の月俸など)、(2)短期インセンティブ報酬(年間の業績に連動した賞与など)、(3)長期インセンティブ報酬(ストックオプション=新株予約権、業績条件付き株式など)の3要素からなる。業績を向上させるインセンティブ(動機づけ)をどう高めるかによって、これらの報酬の組み合わせが変わってくる。

報酬は業績を高めるための手段

井上康晴
マーサ―ジャパン 組織・人事コンサルティング部門プリンシパル 役員報酬・コーポレートガバナンスプラクティスグループリーダー。名古屋大学経済学部卒業。事業会社、外資系コンサルティング会社を経て現職。

例えば、創業して間もないベンチャー企業ではストックオプションを活用する場合が多い。ストックオプションは株式を取得する権利を行使する株価水準が決まっており、その水準に株価が達しないと報酬はゼロとなる。このため、収益を早期に引き上げるインセンティブが働きやすく、ベンチャー企業に向いているとされる。

一方、企業規模が大きくなると、収益や株価を飛躍的に高めることは難しくなる。この場合、ストックオプションだとハードルが高くなり、かえって経営者のやる気をそぎかねない。そこで、一定の業績を達成した場合に現物株を支給するといった方式を取り入れる企業も多い。現物株なら会社を解散しない限り、価値がゼロにはならないからだ。

ポイントは基本、短期、長期の3つの報酬の比率だ。欧米企業では長期報酬の比率が高い。前述のS&P100の構成企業の場合、総額20億円のうち、長期の額は14億円と全体の7割に達する。長期的に株価を引き上げる、つまり収益を長期的に増やし続けなければならないというインセンティブが強烈に働くことになる。

これに対し、日本企業の場合は、総額1億6100万円のうち、長期の額はわずか3100万円にとどまる。基本報酬が1億円余りあり、「インセンティブの比率と額の双方が低いため、報酬の観点からは業績向上へのインセンティブは働きにくい」と井上氏。そもそも総額が少ないことから、株式を絡めた様々なインセンティブ報酬を設計することも難しいという。

日本企業の報酬水準が欧米に比べて低いのは、国内企業同士の比較だけで相場観がつくられていたことや、横並び意識が強い日本人の気質などが背景にあるとみられる。日本市場を中心に、日本人の経営者が主体となって会社を経営している限りは、それでも問題がなかったかもしれない。

しかし、今や大半の上場企業は海外で事業を展開し、外国人の経営幹部を現地で採用するだけでなく、日本の本社で登用することも珍しくなくなっている。「株主構成をみても外国人投資家の比率が高まるなど、事業以外の面でも企業のグローバル化は進んでいる。外国人投資家は、経営者の報酬が低い場合、優秀な経営者を集める努力を怠っているとみなすこともある」(井上氏)。それが正しいかどうかは別として、グローバル市場の現実は直視する必要があるだろう。