ダイバーシティは競争力 「ハゲタカ」が目覚めた理由米投資ファンドKKR創業者に聞く

2018/12/4
ヘンリー・クラビス氏 KKR創業者
ヘンリー・クラビス氏 KKR創業者

マネーの力で企業を売り買いする投資ファンドは、米国でも指折りの男性優位の職場だった。最大手のコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は女性の採用拡大などダイバーシティ(人材の多様化)を経営の重要課題に据えている。ヘンリー・クラビス創業者に狙いを聞いた。

――KKRは十分に成功してきた。なぜダイバーシティが必要なのか。

「同じような考え方をする人間ばかりでは、グループシンク(集団浅慮)に陥り、自然とバイアスがかかる。多様な視点を持ち込むためには、人材を多様化しなければならない。投資は好奇心がなければ成功しない。多くの情報を得られないと投資機会を失う」

「42年前に3人の男性で会社を起こし、女性やマイノリティー(少数者)の活用は遅れていた。取り組みに動いたのは12年前にESG(環境・社会・統治)投資を考え始めたころだ。ミレニアル世代も台頭し、考え方を変えなければならなかった」

――米国の女性管理職比率は4割超。KKRは21%になったが、どう取り組んできたのか。

「ダイバーシティについて議論しない週はない。11人の役員からなる『インクルージョン(包括)・アンド・ダイバーシティ委員会』が採用と保持の柱だ。管理職に何度も重要性を語って教育し、組織を多様化できたかを評価対象にしている。商業的な成功やリーダーシップとともに文化や価値の項目も評価する」

「数値目標はないが、30%というのが女性やマイノリティーが会社に大きな影響をもたらす割合だろう。人材の質も重要なため、候補を提案する際には、男性などの他の候補も同時に提案するよう求めている。取締役会でも30%に届くだろう」

――社内はどんな環境にすべきか。

「社員に働き続けてもらうことは採用より難しい。まずはワークライフバランスだ。投資ファンドは伝統的にマッチョなスタイルで、男性が長時間労働などで強さを競っていた。男性は遅くにビールを飲みに行き、早く帰宅する女性は罪の意識や疎外感を感じていた」

「同じ仕事なら同じ報酬を約束したうえで、柔軟に働けるシステムが必要だ。在宅での仕事も取り入れ、担当の変更も希望に沿って認める。離職する女性に理由を聞くと、(不満があっても)声を上げていないことに気づく。メンター制度では幹部がそれぞれ複数人を担当し、私はマイノリティーの女性を選ぶようにしている」

――育児支援策ではどんな制度をもうけていますか。

「子供を産んで最初の1年は、出張する際にベビーシッターを連れて行ってよいし、費用を会社が支払う」

「文化も大事だ。40周年に『40フォー40』という取り組みを始めた。40時間は有給でチャリティーに時間を費やせる。シリアの難民を支援したり、ハリケーン後の清掃をしたりしている。この活動は続けたい。ミレニアル世代は、お金を稼ぐだけでなく、人生を意味あるものにしたいと考えている」

――日本企業はダイバーシティで遅れている。

「10年ほど前、ある企業の幹部100人に講演した際、女性は後ろでコーヒーをついでいる人だけだった。海外拠点が多いのに国際企業ではない。日本は高齢化で移民を受け入れるか女性をもっと活用しなければならない。多様化の段階に入っているが時間はかかる」

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米金融界、男性中心から転換