火星探査機が着陸に成功 これからのミッションは?
205日間、4億キロを超える宇宙の旅を経て、NASAの火星探査機インサイトが日本時間の2018年11月27日早朝、無事に火星着陸を果たした。火星の内部を調査し、地中マップを作るというミッションを託されたインサイトが着陸したのは、火星の赤道付近にあるエリシウム平原。単調な荒野が広がる日当たりのいい場所だ。
米カリフォルニア州にあるNASAジェット推進研究所(JPL)に集まっていた科学者や技術者のチームのもとには、まず無事に着陸したことを示すデータが届き、続いて、火星の地平線とインサイトの脚の一部が映った画像がインサイト自身から送られてきた。
「このときを待ちわびていました。ずっと心に描いてきた光景です」と、インサイトチームのシステムエンジニアであるJPLのロブ・マニング氏は話す。さらにソーラーパネルを無事展開できると、インサイトは火星で活躍している探査機たちの新メンバーとして仲間入りを果たすことになる。
火星の大気圏へ突入
2018年5月5日、米カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地から打ち上げられたインサイトは、星の位置を手掛かりに航行コースを制御しつつ火星へ向かった。
火星に接近した11月25日以降、インサイトの突入・降下・着陸チームは2度にわたり、探査機を着陸軌道にのせる作業を行った。着陸場所としてエリシウム平原が選ばれたのは、赤道付近にあって日当たりがよく、地形が単調であるからだ。このような条件は、観測機器を設置するには理想的だ。
大気圏突入の経路を設定してしまえば、あとは座して見守るのみ。インサイトは自力で火星の地表に降り立たなくてはならない。つまり、無事に着陸できるかどうかは、プログラムされた命令と、搭載されている観測機器が正常に動作するかどうかにかかっている。
「当然ですが、無事に越えれば安心というポイントがいくつかあります」と、突入・降下・着陸チームのジュリー・ワーツ=チェン氏は言う。
インサイトが火星の薄い大気と接触するとき、時速約2万キロで降下する本体は耐熱シールドによって守られる。約1分後、探査機はパラシュートを展開して降下速度を落とし、時速200キロ程度にまで減速する。
その後、耐熱シールドを切り離し、搭載されているレーダーで地面を探して照準を合わせる。上空1000メートルの位置でパラシュートも切り離し、しばらく自由落下したあと、12基の降下用エンジンを噴射して最終的に時速8キロまで減速する。
火星の大気に接触してから地表に脚を広げるまでの時間は、わずか6分45秒。さらに着陸によって舞い上がったちりが収まるのを待った後、ソーラーパネルを展開した。
この日、火星に近づいた探査機はインサイトだけではない。キューブサットと呼ばれる小型探査機を惑星間飛行させるという初めてのミッションの一部として、書類カバンほどの大きさの2台の小型探査機がインサイトに追随していた。
2台の探査機は合わせてマーズ・キューブ・ワンと呼ばれるが、個別にはMarCO-A、MarCO-Bと呼ばれている。この2基が果たすのは、火星に降下するインサイトの情報をJPLの管制センターに中継する任務だ。
火星の鼓動
インサイトが火星での1年(地球では2年以上)をかけて行うことは、ほかの火星ミッションとは異なり、火星の地上を走り回って巨大火山や水の痕跡を探査するものではない。
インサイトが目指すのは、火星内部について知ることだ。そのために、インサイトはこの惑星の地震を観測する。NASAマーシャル宇宙飛行センターのレネ・ウェーバー氏によると、インサイトの主目的の一つは、火星の地震活動がどの程度活発なのかを突き止めることにある。
「これは私たちがまだ知らないことです。基本的な調査としては、何回くらい揺れているのか、どれくらいの頻度か、どこで起こるのか、どのくらいの規模なのかといったことを調べます」
ウェーバー氏は、地殻活動に関して言えば、火星は地球と月の中間にあたるのではないかと考えている(月にも地震があり、1970年代にアポロの宇宙飛行士によって測定されている)。
火星の地表に降り立ったインサイトは、今後3カ月間をかけて、超高精度地震計などの観測機器を展開する。そして、振動による信号をキャッチするためにただ待ち続ける。観測機器は、さまざまな振動をとらえることだろう。火星自身の活動による揺れと、隕石の衝突による揺れの両方を観測できるはずだ。
地震が起きれば、その地震波を読み取ることで、どんな種類の岩を通過してきたのかを突き止めることができる。データを十分に集めることができれば、火星の中心はどうなっているのかについて、手がかりが得られるはずだ。火星を深くまで掘削して温度を測る2つ目の観測装置も展開される予定だ。これで、火星内部の熱の状態もわかる。
今回のミッションの主任研究員補佐を務めるスザンヌ・スムレッカー氏は、インサイトによる観測データを合わせれば、どのように火星が形成され、どのように進化したのかを解き明かす助けとなるという。このことは、太陽系の理解を深めるだけでなく、太陽系外の星々の謎を紐解く手がかりにもなる。
スムレッカー氏は言う。「遠い世界で何が起こっているのかを正しく予測するには、表面だけでなく、すべてを理解することが欠かせないのです」
(文 NADIA DRAKE、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年11月27日付]
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