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世界は「ゾンビ」だらけ 不思議で恐ろしい寄生体

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/12/8

――他の生物に入り込み、体を乗っ取る寄生虫はどうですか?

いわゆる寄生虫――蠕虫(ぜんちゅう)ですね。彼らは複雑な生活環を持っていて面白いです。たとえば、淡水にすむヨコエビという甲殻類に寄生する蠕虫は、ヨコエビの体内にとどまらず、最終的には魚か鳥の腹の中に移らないと生活環が完了しません。ここで、悪魔的に精密な操作術が発揮されます。寄生虫の種類で、鳥に入りたいのか魚に入りたいのかは違うのですが、それぞれの寄生虫がヨコエビに指令を出します。

とげとげした頭の寄生虫の幼虫に侵されたヨコエビは、寄生虫の生存のための奴隷と化してしまう(Photograph by Anand Varma, Nat Geo Image Collection)

もう少し詳しく説明しましょう。鳥に移りたい寄生虫は、ヨコエビに入った後、水面近くにヨコエビを誘導します。これで鳥に食べられやすくなり、目的外の魚には食べられにくくなります。反対に魚に移りたい寄生虫は、ヨコエビを水底近くに誘導します。

こんな風に、彼らは複雑な生活環を進化させています。実際、とても賢い生き方だと言えます。

――寄生虫やハチから少し離れて、映画に見られる、ポップカルチャーにおけるゾンビについて教えてください。

ゾンビ映画には死者が蘇るだけでなく、ウイルスによって人が凶暴化する作品もありますね。このゾンビは、狂犬病の症状から発想されたようです。ウイルスは寄生生物とは認識されていないかもしれませんが、狂犬病ウイルスは、宿主をマインドコントロールしてしまう寄生ウイルスです。本来はヒトではなく、他の哺乳類をターゲットとして進化してきました。しかし、私たちヒトも哺乳類であり、アライグマやオポッサムなどと似た脳を持っていますから、感染してしまうのです。

狂犬病を発症した人の映像がありますが、見るのはつらいものがあります。泡を吹くという症状がよく知られていますが、症状が出始めたときにはもう手遅れで、死は避けられません。発症前にワクチンを打てば、死を免れることができます。でも、症状が出始めてしまうと、生存率はほぼゼロです。

ポップカルチャーで描かれるゾンビは、狂犬病を発症した人に似ています。でも、実際のウイルスの振る舞いはさらに複雑です。狂犬病ウイルスが生活環を完了させるアライグマでウイルスがやるのは、ほかの宿主に移るためウイルスだらけの唾液を泡として吹かせるだけではありません。宿主を操作して、より攻撃的な行動に振り向けます。宿主が他の動物に噛みつけば、ウイルスは新しい体に入り込めますから。

まだあります。ウイルスは宿主に水を避けさせるだけでなく、水を怖がらせます。おそらく、ウイルスを口から洗い流してしまわないよう、操作するのでしょう。ウイルスは、宿主が水を目にしただけでひるむような操作までするのです。

――ダーウィンは1860年に「慈悲深く全能である神が、ヒメバチ(寄生バチ)を創造されたとは、私にはどうしても思われない」と記しています。あなたの本を読んでから、私も同じ思いになっています。

私は元々無神論者ですが、この本を書いたことで、ますますそう思うようになりました。寄生生物による操作は、宿主にとってあまりにも恐ろしく、痛ましいものばかりです。このことは、種に対するこれまでの見方を変えなくてはならないことを意味していると思います。

寄生生物がどのくらい自然界に広く分布しているのか、まだ解明できていません。私たちヒトも、例外とは言えません。私たちは、どれくらい自分で自分の脳をコントロールしているのでしょう? あるいは、望まずしてですが、寄生生物たちに操られている可能性もないとは言えませんよ。

(マット・サイモン氏へのインタビューをもとに構成)

(文 Simon Worrall、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年11月28日付]

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