ベストテンの本は入り口脇の面陳列棚に展示する(天狼院書店「Esola池袋店」STYLE for Biz)ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している街を離れて、都心西側の一大繁華街、池袋に足を伸ばした。駅直結のファッションビル、Esola2階に立地する天狼院書店「Esola池袋店」STYLE for Bizだ。
店名が示すとおり、ビジネス書に特化した専門書店で、文章講座や写真講座など多彩なセミナー事業を書籍販売と複合した形で展開するユニークな書店だ。そこで売り上げ上位に食い込んでいたのは、町工場をクリエーティブな技術者集団へと変貌させた中小企業経営者による、自らの経営哲学と軌跡をまとめた一冊だった。
■町工場の変革物語
その本は山本昌作『遊ぶ鉄工所』(ダイヤモンド社)。著者は京都府宇治市にある鉄工所、ヒルトップの副社長だ。父が創業した鉄工所に入社し、社長を務める全ろうの兄を助けて大手自動車メーカーの下請け、孫請けの部品加工会社だった同社を、多品種少量のアルミ加工メーカーへと変革した。本書にはその改革の経験と知恵、改革の原動力となった著者の強いビジョンが詰め込まれ、思わず引き込まれる。
冒頭のプロローグで著者は書く。「私には、40年以上前から、変わらぬ夢がありました」。それは社員が誇りに思えるような「夢の工場」をつくろう、油まみれの工場を「白衣を着て働く工場」にしてみせるというものだ。実現のために変革したのが「人」「本社」「つくるもの」「つくり方」「取引先」の5つだったという。
経験や勘に頼るにわか職人を繊細なプログラムを組める人材へと置き換え、油まみれの本社工場をピンクのコーポレートカラーをまとい、社員食堂や筋トレルームを備えたIT企業かと見まがう施設へと変えた。つくるものは量産部品から単品ものへと変え、つくり方は新たな生産管理システムを構築、取引先も親会社に頼る形から毎年100社が入れ替わる3000社との取引へと変えた。
■生産性より先にモチベーション上げる
本書を読むと、企業変革にはリーダーのビジョンの強さがいかに大切かがストレートに伝わってくる。それと同時に会社を社員が生き生きと楽しく働ける場所にするための小さな工夫も本書にはいくつも織り込まれている。とりわけ人事や人材育成については、「生産性より先にモチベーションを上げる」「5%だけでもいいから、楽しいことをやる」「入社2年目の社員に新人教育を任せる」など、製造業以外の職場にも参考になりそうな記述が多い。
「うちは様々なイベントを書店のスペースを使って展開していて、その関連で売れていく本が多い」と同書店を運営する東京プライズエージェンシー取締役の池口祥司さんは話す。7月刊のこの本も天狼院書店店主で作家の三浦崇典氏が著者にインタビューするイベントが10月に京都天狼院で開かれたことで、この店でも売り上げが伸びた。
東京・池袋、京都、福岡で6店舗を展開する同書店は、ホームページでも頻繁にイベント情報を発信しており、魅力的な本を発見しては店舗とウェブ双方を活用した発信力で読者とつなげている。
■イベント連動で再発見された本
それでは、ベスト5を見ていこう。同書店は毎週月曜日に前々週のランキングを集計しており、今回紹介するのは11月12~18日分だ。
(1)1分で話せ | 伊藤羊一著(SBクリエイティブ) |
(2)なぜ、ビジネスエリートには、猫背の人がいないのか? | 澤田大筰著(PHP研究所) |
(3)クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養 | 松田亜有子著(ダイヤモンド社) |
(4)殺し屋のマーケティング | 三浦崇典著(ポプラ社) |
(5)振り返り手帳術 | 伊藤精哉著(新泉社) |
(天狼院書店「Esola池袋店」STYLE for Biz、2018年11月12~18日)
1位は、3月刊のヤフーアカデミア学長の著者が伝え方を説いた本。こちらはまさに先々週、この店で著者イベントを開催した。2位は、柔道整骨師の著者が猫背のメカニズムと問題点を説き、改善策を示した2015年刊の本。3位はビジネス教養書で、今度はクラシック音楽を扱った新刊だが、これも著者イベントがあった。
4位は、店主の自著。17年11月刊の本格マーケティング小説をうたう本で、この本の理論を教えるマーケティング講座も今年実施した。5位は自分を振り返る手帳術の本。これも著者を呼んだイベントを10月に実施している。紹介した『遊ぶ鉄工所』は10位だった。
(水柿武志)
本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。