出世ナビ

長寿企業を変える

「バーミキュラ」生んだ職人魂 兄弟経営で町工場復活 愛知ドビー(上)

2018/12/4

「たしかに難しかったんです。ホーロー加工では鋳物を800度で焼くのですが、740度付近になると炭素が気化してホーローを突き破り、表面にあぶくが出てしまう」(智晴副社長)

鍋本体と蓋が合わさる部分を精密に削っても、ホーロー加工で焼くと鋳物が熱で歪んでしまい、密閉性が悪くなる難問にも直面した。密閉性を高めながらホーロー加工の完成度も上げていくのは至難の技で、求める精度に到達するまでには3年間を要した。

途中、リーマン・ショックの余波で工場を週2、3日しか稼働できない日が続いた。毎月、開発費分の赤字が出ることを心配した智晴副社長は、その頃、こんな提案をした。「現時点でも既存の鋳物ホーロー鍋と同じレベルには達しています。売り出しますか?」

だが、邦裕社長は首を縦に振らなかった。

「すでにあるものと同じレベルのものを出したところで、一時的には売れたとしても、継続的に売るのは難しいだろう。それよりも、もう少し頑張って世界最高の鍋を作ることにこだわってみよう。それが、僕たちのやりたかったことなんじゃないか?」

内心は同じ気持ちだった智晴副社長も、その言葉を聞いて安心したという。

■海外市場も視野に入れたブランド作り

性格の違うコンビが町工場を立て直した=愛知ドビー提供

のべ1万個以上の試作を重ねた末、10年2月、バーミキュラは完成した。自社のウェブページを通じて販売すると、3万円前後もする鍋が飛ぶように売れた。当初は生産が追いつかず、半年待ちの状態だったほどだ。現在は職人の数を増やすなどし、月1万2000台を生産できるまでに。取り扱いも全国200店舗へと広がり、うち約50店舗に社員販売員を常駐させている。

16年12月には、バーミキュラに自動で火加減調節ができる機能を加えた炊飯器「バーミキュラ ライスポット」も発売。競合ひしめく家電の分野に新風を巻き起こし、グッドデザイン賞やヒット商品に関する多くの賞も受賞した。「モノを売って終わりではなく、料理や食べることを楽しむという体験をシェアできて初めて成功と言える。製品の半分はレシピだと思っています」と智晴副社長。著名な料理研究家と協力したレシピブックは10冊以上を数える。

現在は同じ商品を、海外向けに「火加減調節ができる調理器」という新カテゴリーで展開する準備を進めている。第1弾として19年2月に米国、続いて中国でも売り出す予定だ。海外展開の成否は各国の食文化に合わせたローカライズができるかどうかにかかっているが、すでに海外向けのレシピも開発中。販売チャネルが多様化した現代だからこそ、やり方次第では中小メーカーにも十分にチャンスは広がっている、と2人は見ている。

邦裕社長の入社時にわずか15人だった社員数は、約250人に増えた。2017年11月期の売上高も約44億5000万円と、バーミキュラの販売を開始した時点から約10倍に拡大している。「世界一の鍋ブランド」への挑戦はこれからだ。

(ライター 曲沼美恵)

次世代リーダーに必要な3つの要素を身につける講座/日経ビジネススクール

日経ビジネススクールは、グローバルにビジネスを推進し、
社会に変革と活力をもたらす人材を育成します。

>> 一覧はこちら

出世ナビ 新着記事

ALL CHANNEL