熊川哲也 トップダンサーのマネジメント術
世界的バレエダンサー、芸術監督、演出家、そして経営者と、様々な顔を持つ熊川哲也氏。トップスターとして活躍中だった英ロイヤルバレエ団を辞め、1999年、27歳で立ち上げたKバレエカンパニーは来年で設立20周年を迎える。今や看板の熊川氏自身が出演しなくても年約50回の公演をする日本屈指のバレエ団に育った。11月には熊川氏が芸術監督を務める東急文化村とフランチャイズ契約を結び、ほぼ全公演をオーチャードホール(東京・渋谷)で行う。契約締結後の初公演は10年ぶりの熊川版「くるみ割り人形」。ホームグラウンドを得て「Kバレエにしかできない作品を作りたい」と語る同氏にマネジメントの心得を聞いた。
「若気の至りだったし、結構チャレンジャーだった」と熊川氏はバレエ団を設立した当時を振り返る。今はバレエ団に加え東京や福岡などでバレエ学校を複数運営し、経営者としての判断を迫られる場面も多い。「当時は普通のことをしていると思っていたけれど、潜り抜けたリスクを考えると今になってぞっとする」と苦笑する。
■「ベートーヴェン 第九」で久々に自ら出演
「誰もやっていないことをするのは勇気が要るけれど、それをやってきたから見える世界がある。環境をあえて壊し、新しい力を手に入れてまた違った何かが生まれるのではないかという期待感、わくわく感を求めてきた」
最近はマネジメント業務など裏方に徹していたが、2019年1月、自ら振り付けをした作品「ベートーヴェン 第九」の舞台に久々に登場する。「この何年かは世代交代も踏まえて基盤をつくり、自分がいなくても揺るがないバレエ団にするため、あえて姿を消していた。それが功を奏し、自分が踊らなくても十分活動していけるようになったので心に余裕ができた。一緒の舞台に立ったことのない10~20代のダンサーが大勢いるので、自分がもう少し踏ん張って『熊川哲也と同じ舞台に立った』という経験を持たせたいと思った。親子ほど年の離れたダンサーたちとも分け隔てなく一緒に踊り、立場や地位は関係なく同じバレエという言語で会話できることを伝えたい」
Kバレエカンパニーは渋谷という文化の発信地に拠点を得て、海外の人たちも引き付ける舞台づくりを目指す。「歌舞伎や相撲と同じように、日本に来たらバレエを見に行こうと思ってもらえるのが日本のバレエの真の国際化」と熊川氏。そのカギがオリジナル作品だ。そこで初めて舞踊監督というポストを設けてダンサーの指導を任せ、自らは作品づくりに専念できるよう組織を変える計画だ。
■Kバレエでしか見られない独自の作品に注力
「作った作品こそがカンパニーのアイデンティティーだ。専売特許として売れる商品があれば他のバレエ団と差別化できる。絶対的な財産だ。昨年完成した『クレオパトラ』は自分が作り、著作権を持っているので、Kバレエでしか見られない。そういう独自の作品をどんどん作りたい」
経済ニュースにも目を配り、経営者の発言や考え方にも関心を寄せる。「全てを真っ白にして、また違ったことをやりたいと思うときもある。でも生徒たちの夢をいっぱい背負っているから、バレエ団もいい作品も育てないといけない」と笑う熊川氏に組織を率いるトップの顔を見た。
(映像報道部 槍田真希子)
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