中古住宅なぜ売れない 質と価格の透明化がカギに
2019年の消費増税が決まり、消費を低迷させないためのいろいろな政策が議論されています。なかでも住宅は価格が高いので、新築に比べ割安な中古住宅に消費者の目が向く機会となりそうです。
17年度の国土交通省の調査では、新築住宅を購入した人に中古住宅にしなかった理由を聞いています。注文住宅の場合、購入した人の約62%が「新築の方が気持ち良いから」と答えており、中古は魅力に乏しいと考えられているようです。
海外に目を向けると事情は違います。国交省の試算によると、日本の中古住宅流通戸数を新設住宅着工戸数との合計で割ると約15%でした。米国は約83%(14年)、英国約87%(13年)とより高くなっています。欧米に比べ、なぜ日本では中古住宅の取引が少ないのでしょうか。
国交省調査では、「隠れた不具合が心配だった」が約27%など、中古住宅の品質への不安が見て取れます。国は4月、品質を明らかにするための取り組みを始めました。住宅の売買などを扱う宅地建物取引業者は仲介時、外壁のひび割れや雨漏りなど劣化のインスペクション(建物状況調査)を実施するかどうか、売り主や買い主に確認することを義務付けました。中古住宅の品質を国が業界団体を通じ、保証する仕組みも動き出しています。
品質だけではなく、価格の透明化の動きもあります。国交省は来年度、中古住宅に公的なIDを付与し、取引価格などの情報を記録する仕組みを始めようとしています。詳細な情報を得ようとしても、わかりにくいのが実情でした。取引価格の推移が分かれば、物件の相場も分かりやすくなると期待されます。
一方、立地や間取りなどが様々なため一点ものといえる中古住宅もあり、相場だけでは価格の判断が難しいといったケースがあります。不動産競売流通協会(東京・港)は10月、中古住宅などをインターネットで紹介し、買い手を募るサービスを始めました。青山一広代表理事は「公平な価格付けを目指し、誰でも入札可能なオークション形式にした」と話します。
ネットに掲載後、1週間程度の間に入札を募集し、最も高い入札額で落札者と価格が決まります。始まったばかりで活況とまでは言えないものの、複数の入札により買い手が決まれば、価格の説得力は増します。
住宅を売ろうと考えている人には何ができるのでしょうか。不動産取引に詳しい不動産コンサルタントの田中歩氏は「まずはインスペクションにより、住宅の状態を確認することが重要だ。住宅のメンテナンスの計画を立てることもできる」と話しています。
中城康彦・明海大学教授「官民の取り組み、知名度向上が課題」
日本の中古住宅市場の現状について、明海大学の中城康彦教授に聞きました。
――足元の状況はどうですか。
「国を挙げて中古住宅取引の推進に取り組んでいるので、取引の割合は高くなってきている。一部の都市圏では、中古の取引が新築の取引を上回ったというデータもある。一方、地方では概して新築のほうが多いとみられる。地方では、住宅は建てるものという考えが根強くあるようだ」
――中古住宅の取引に関して、どんな問題があるのでしょうか。
「(インスペクションが導入された背景には)中古住宅にまだ価値があっても値段が付かないという問題があった。適切に価格を付けるためには、物件の状態を正しく評価できなければいけない。どこがいたんでいるのか、どこを直さなければいけないのか、あと何年使えるのかなどだ」
「また日本は、住宅を売った後に欠陥が見つかると、売り主が責任を負わなければいけない。ただ中古の場合、売り主は売った後に次の住宅を買うなど、十分な資金を持っていないことが多い。買い主は、欠陥の保証を十分に得られないのなら新築を買おうと考えてしまうし、売り主は中古住宅を壊して更地にして売ったほうが面倒がないと考えがちだ。そこで欠陥が見つかった場合、補修費などの支払われる保険が国主導で新設された」
――今後の課題はありますか。
「4月には、国が業界団体を通じ、中古住宅の品質を保証する仕組みもできた。インスペクションが実施されているなどの条件を満たし、売却後のリフォームも念頭に置いた中古住宅に、安心R住宅というラベルを付ける制度だ。もっとも、国民にはあまり知られていない。安心R住宅の持つ意味や認知度向上に、官民で取り組む必要がありそうだ」
(久保田昌幸)
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