「暮らしに驚き」演出 パナソニックが2020年家電

日経クロストレンド

人間らしい姿とは、家族の在り方とは何かを追究

ただHomeX Displayだけでは単なるリモコンスイッチの統合に見える。新鮮さはあまり感じない。タッチ型ディスプレーを使うことで、テレビやエアコン、照明、シャッターなどを統合するというアイデアは、これまでも「未来の家電」の姿を描くときは必ずと言っていいほど出てきた。この点について馬場氏は、「単にネットにつながればいいのではなく、自動化が目的でもない。人間らしい暮らしとは何かを中核に据えて、開発を進めた。狙いは『セレンディピティー』のある暮らしの実現で、そのためにもネットの活用が不可欠だった」と話す。

セレンディピティーとは、「素敵な偶然」に出合ったり、予想外のものを発見したりすることを意味する言葉だ。HomeX Displayを通じてさまざまな生活情報を得ることで、「未知なものに出合える刺激ある豊かなくらし」「自分にぴったりのものだけではなく、今まで知らなかったものに出合えるくらし」を提供することを狙う。これがパナソニックが考える人間らしい暮らしなのだろう。馬場氏は、「HomeXのある家そのものを、新しい体験を提供してくれる『もう一人の家族』のような存在にしたい」という。

これまでのネット活用は、自分が知りたいことを検索することが多かった。しかしHomeXでは自分が意識していないことも教えてくれるという。料理のときは季節に応じたレシピを提案してレンジに転送したり、服が泥で汚れたときは最適な洗濯方法を提案して洗濯機に転送したりする。HomeXがあたかももう一人の家族のように、家族の様子を察して教えてくれるわけだ。

寝室に設置したところ。照明のスイッチも兼ねるので、部屋の入り口にある。「おはよう」モードなどで照明を制御すれば、目覚めも軽やか

こうした情報は従来、多くの人とコミュニケーションすることで得ていた。商店街にある店の主人から旬の食材を教わった、といった経験は多くの人にあるはずだ。いろいろな人とつながることによる新しい発見が、日々のワクワクする暮らしにつながる。それを最新のテクノロジーで再現しようとしているわけだ。

そういう視点で見ると、HomeXの出来はまだまだ。ようやくネットにつながった段階であり、情報の内容が伴っていないように感じる。HomeX対応機器がそろったとき、セレンディピティーのある暮らしをいかに実現できるか。まだハードルは高そうだ。

パナソニックは開発にあたり、人間らしい暮らしとは何か、家族の在り方とは何かを徹底的に考えたという。馬場氏はデザイン・シンキングの専門家としても知られており、単なる効率化や利便性だけでなく、人間性を重視したのだ。駒場の住宅展示場でのマスコミ向け発表会でも、「壁に固定せずに持ち歩けるようにした方が、便利なのでは」「スマートフォンを活用する方法もあったのでは」といった質問が記者から飛んだ。これに対し馬場氏は、「人間らしさの視点で判断した」と答えていた。家族が集まる食卓でさえもスマホの画面ばかり見て、それぞれが自室に引きこもって顔を合わせない家族より、リビングやキッチンに集まる家族の在り方こそ、人間らしい姿だと見ているのだろう。

折しも創業100周年記念イベントの基調講演で津賀一宏社長は、パナソニックが目指す姿として、「くらしアップデート業」を打ち出した。人々の暮らしを、いかにアップデートさせるかが、パナソニックの課題になるという。HomeXも20年に向けて、どこまで「アップデート」するか期待したい。

(日経クロストレンド 大山繁樹、写真 丸毛透)

[日経クロストレンド 2018年11月21日の記事を再構成]