脳のパフォーマンス最大に 脳医学者お薦めの勉強法

日経ウーマン

2018/12/6

オトナのスキルアップ入門

脳のパフォーマンスを最大限高める勉強法とは(写真はイメージ=PIXTA)
脳のパフォーマンスを最大限高める勉強法とは(写真はイメージ=PIXTA)
日経ウーマン

「脳は受けた刺激に対して変化し続ける性質がある」と脳医学者も力説。大人の脳の性質を踏まえて勉強法を工夫すれば、何歳からでも新しいことを学び、身に付けることは十分に可能だ。

ストレスのない勉強が脳の力を引き出す鍵

東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之さんは、膨大な脳のMRI画像から、脳の発達の仕組みを解明する脳医学者。世に出回る勉強法には個人の経験則によるものも少なくないが、16万人もの脳画像を見てきた立場から瀧さんが説くのは、「脳の性質上、妥当といえる」勉強法だ。

瀧さんがまず強調するのは、大人の脳も子供の脳と同様、成長すること。「新しいことを学ぶと、脳に情報伝達の回路ができる。その速度は大人になると緩やかになりますが、勉強を続ける限り回路は確実に増え、新たな能力を身に付けられます」。

その際、「好き・楽しい」と感じつつ学ぶことが大切と言う。精神論ではなく、感情が記憶の定着に影響するためだ。「嫌だという気持ちがあるとストレスホルモンが分泌され、記憶を司(つかさど)る海馬や前頭前野の脳細胞が萎縮。反対に、好きだと思うとストレスが減り、脳は本来の機能を伸び伸びと発揮する。また、海馬の近くに位置して感情を司る扁桃体(へんとうたい)が、海馬の脳細胞に影響を与え、記憶の定着を強めます」。

さらに、知的好奇心が強いほど、情報の記憶・操作と高次認知機能を担う側頭頭頂部が萎縮しにくい。「勉強を苦行ではなく夢をかなえるツールと捉え、ワクワクしながらストレスなく学び続けることで、脳のポテンシャルは最大限引き出されます」。

「好き」「楽しい」と思えるか否かで、脳のパフォーマンスが変わる

脳のパフォーマンスは、感情によって左右される側面がある。「嫌いな勉強」と感じるとストレスホルモンが分泌され、記憶を司る海馬や前頭前野が萎縮する一方、「好きな勉強」と感じると、感情を司る扁桃体と海馬との神経細胞のつながりが増し、記憶はより定着しやすくなる。

「好きな勉強」と感じると記憶はより定着する(写真はイメージ=PIXTA)

脳には「可塑性(かそせい)」があり、たとえ80~90代でも新しい能力を獲得できる

脳には自ら変化し続ける「可塑性」という性質がある。変化は年々緩やかになるが、性質自体は失われず、学び続ければ何歳でも新しい知識を習得できる。また、ある能力が伸びると他の能力も伸びる「汎化(はんか)」という性質もあり、1つの能力を徹底的に磨くことで新たな得意分野も開ける。

脳は何歳でも新しい知識を習得できる性質がある。一方でストレスは脳に影響を与え、勉強にとってはマイナスに作用する(イラストはイメージ=PIXTA)
【前頭前野】ストレスで萎縮し思考力低下も
前頭葉の一部で、記憶、学習、感情などを司る脳内ネットワークの司令塔。ストレスを受け続けると萎縮し、思考力、記憶力、判断力が低下することも。

【海馬】記憶を一時的に保管。ストレスで縮む
学んだ情報の短期保管場所。必要な情報がここから大脳皮質に移り、長期記憶となる。ストレスの多い生活は海馬を萎縮させ、記憶力が衰えることも。

【扁桃体】好き・嫌いを判断し海馬の記憶力を左右
好き・嫌いといった感情を司る神経群。海馬の近くに位置し、扁桃体の反応が海馬に作用。嫌だと思いながら勉強すると、海馬の活動が抑えられる。