
ノルウェーのスバールバル諸島にある小さな集落、ニーオルスン。ここより北には北極点くらいしか地図に描かれていない極北、北緯79度にある。ただ、北極圏の他の拠点とは違って、ニーオルスンは商業漁業や船舶運航のハブではない。ここは、科学者たちが暮らし、学問的探究を支える場所なのだ。彼らの日常を、イタリア人写真家がとらえた。
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スバールバル諸島は、氷河と山とフィヨルドが広がり、ホッキョクグマやホッキョクギツネ、セイウチやクジラが生息する自然豊かな場所だ。しかし、人間が暮らす地としては地球最北だろう。
ニーオルスンは1990年代から、北極圏での調査をしようと世界中から訪れる研究者たちのため、研究拠点およびコミュニティとしての役割を果たしてきた。スピッツベルゲン島にあるこの基地は、「ハウス」と呼ばれる複数の研究ステーションからなる。

ハウスは国ごとに分かれているが、「AWIPEV」だけは別でドイツとフランスが共同利用している。「AWIPEV」という呼び名は、両国の研究所の名称、つまりドイツのアルフレッドウェゲナー極地海洋研究所(AWI)と、フランス極地研究所(IPEV)の略称をつなげたものだ。
撮影したイタリアの写真家パオロ・ヴェルゾーネ氏が、初めてニーオルスンを訪れたのは、フランスの「ル・モンド」紙の仕事だった。この場所の歴史、そして科学者たちの和気あいあいとした雰囲気に惹かれ、以後2回再訪して、彼らの様々な生活風景を撮影した。

ヴェルゾーネ氏によれば、ニーオルスンが魅力的な理由の一つは過去の歴史にある。村はかつて、ロアール・アムンセンやウンベルト・ノビレといった伝説的な探検家たちが北極探検に臨む際のスタート地点だった。20世紀前半には石炭の採掘地となったが、1963年、2つの大きな事故が起こり炭鉱は閉鎖。その後、炭鉱を所有していたキングスベイASという会社が、現在のような研究拠点に作り変えることを支援した。