北極の研究基地ニーオルスン 美しく和やかな日常

日経ナショナル ジオグラフィック社

今日、それぞれの研究センターは、各国の極地研究所に所属する研究者が利用するラボおよび居住スペースとしての役割を担っている。研究者たちの専門分野は、物理学、雪氷学、海洋生物学、化学など様々だ。

ポンプの交換やケーブルの再接続といった水中メンテナンスを行うドイツのダイバー(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)

研究チームの調査は1年のうちの特定の期間に行われることが多いため、ニーオルスンに滞在する研究者は日々入れ替わる。めまぐるしく変わる滞在状況を管理するため、各センターにはリーダーが1人おり、日常的な物資の管理や基地のメンテナンス、そして滞在者の安全管理などを統括している。基地に常駐しているのは30人だけで、その多くがサポートスタッフだ。ピーク時でも滞在者は200人に満たない。

食料は年に何度かコンテナ船が運んでくる。食堂は1つで、全員が同じ場所で食事をする。物資の運搬方法はスノーモービルと犬ぞりが中心だ。さらに滞在者は必ず、半日かけてホッキョクグマに関する安全講習を受けなければならない。ホッキョクグマは好奇心が旺盛で、ハウスのそばまでやってくることがある。

基地生活には持続可能であることのほかにも、守らなくてならないことがある。例えば、電波は発信できない。つまり、携帯電話を使うことは許されない。これはデータ収集に影響を及ぼしかねないからだ。インターネットに接続するには有線を使うほかない。ほかにもニーオルスンにはルールがあり、子供の来訪も禁止されている。

キングスベイ臨海実験所の中では、海水のサンプルを使って気候変動が微細藻類に与える影響を調査中(PHOTOGRAPH BY PAOLO VERZONE/VU FOR IPEV)

「何もない、電波も通じない場所に、20軒のハウスが建っているところを想像してください」と、ヴェルゾーネ氏は携帯電話から解放されたことを喜ぶ。

それでも僻地のニーオルスンにも楽しみはある。土曜日ともなれば、研究者たちが基地のバーに集まってのんびりと喉の渇きを癒す。調査で疲れた1日の終わりには食前酒やトランプをたしなみ、その日の出来事を共有する。

とはいえ、調査結果までシェアするのだろうか? もちろんだ、とヴェルゾーネ氏は答える。ニーオルスンの国境を越えた仲間意識には、特筆すべきものがあるという。「世界中がこの場所のようになれば、素晴らしいと思います」

次ページでも、極北の研究者たちの姿を、ヴェルゾーネ氏の写真でお届けしよう。