スーパーで見かける鮮やかな緑色のコマツナ。鍋の副食材やおひたしの具に使われることが多い地味なイメージだったが、料理の主役としても脚光を集めている。サラダや豆腐の原料に使う飲食店もあるなど生食から加工食品まで用途は広がっている。他の葉物野菜と比べてアクや臭みが少なく、調理の汎用性が高いのが人気の秘訣だ。江戸時代から続く伝統のコマツナの本場、東京の下町情緒漂う江戸川区を訪ねてみた。
サラダ食材としても評価
都営新宿線の篠崎駅から徒歩10分弱。商店街の一角に日本料理店「いし井」(東京都江戸川区)がある。店長の石井昭生さんは地元のコマツナ農家の出身で、「小松菜豆腐」(1皿税抜き700円、要予約)や「小松菜シーザーサラダ」(1皿税抜き700円)など工夫を凝らしたコマツナを使ったメニューを取りそろえている。実家は近隣でコマツナを栽培。毎朝、実家の畑から収穫した新鮮なコマツナを料理の食材として提供している。
記者も小松菜豆腐に箸を伸ばしてみた。外見は濃い抹茶色で、コマツナをミキサーにかけた搾り汁を豆腐に混ぜて自前で作っている。木綿の豆腐と比べると弾力があり、のどごしにコマツナの風味が伝わる。食感を楽しむことが多い豆腐だが、しっかりとした味が食欲を駆り立てる。小松菜シーザーサラダはコマツナをサラダ食材として主役にした料理。トマトなどと混ぜて食べる。コマツナのシャキシャキ感が好評だという。
石井さんは「コマツナ料理は年々注文が増えてきた」と話す。豆腐やサラダなど「こんな食べ方があるんだ」と驚いて注文する客が多く、「味の良さで次第に定着してきた」という。コマツナといえばおひたしや鍋に入れる脇役のイメージだったが、料理の中心食材としても認識され始めているようだ。
生食、ほとばしる水気
江戸川区はコマツナの生産地としてもよく知られる。特に小松川地区は江戸時代からコマツナが栽培されていた。8代将軍徳川吉宗が小松川地区に鷹(タカ)狩りで赴いた際、コマツナが献上されたとも伝わる。主に関東圏を中心に好まれていたが、戦後は全国で栽培されるようになった。