衣服だってジャストインタイム ブランドと工場を直結
シタテル社長 河野秀和氏
アパレル業界の大きな特徴の一つは、トレンドが激しく移り変わること。それだけに、時代の流れに機敏に対応して製品をタイムリーに生み出すにはどうしたらいいのか、様々な企業が試行錯誤してきた。このアパレル業界の「永遠の課題」にIT(情報技術)で挑んでいるのが、衣服生産のプラットフォーム「sitateru(シタテル)」を運営するシタテル(熊本市)だ。いわば、衣服版のジャスト・イン・タイム。河野秀和社長に事業の狙いと特徴を聞いた。
――サービスの内容を教えてください。
「sitateru(シタテル)は、インターネットを活用した、衣服生産のプラットフォームです。具体的には、衣服を実際に縫ったり作ったりする縫製工場の情報をデータベースに登録しています。一方で、『こんな服を作りたい』というユーザーは全国に多くいらっしゃいます。縫製工場側と、服を生み出したいユーザー側をマッチングし、生産工程までサポートさせていただく、というのが当社のサービスになります」
■デジタル活用で枚数少なくても服を作れる
――なぜこのようなサービスを立ち上げたのですか。
「私はもともと、熊本で企業の事業支援の仕事をしておりました。小売店さんから『高付加価値で高品質なものを限定生産の小ロットで作りたいけど、今の流通だと実現できない』という相談を受けました。そんなことはないはずだと思い、私が直接縫製工場に行き、生産依頼をしたところ、工場には繁忙期と閑散期があることが分かりました。そして、閑散期であれば小ロットでもものづくりができることも見えてきました」
「相談を受けた小売店さんの小ロット製品を実際に発注してみたところ、1カ月ほどで製品ができ、非常に喜んでいただきました。この経験から、いろいろな工場のデータを正確に把握できるようになれば、今まで生産できないとあきらめていたものでも生産できるようになるのではないかと仮説を立て、シタテルのサービス開発に着手しました」
――アパレルの流通や生産工程にどのような課題があったのでしょうか。
「アパレルは非常に産業構造がいびつな形になっています。例えば今、小売店やデザイナーさんが衣服を作りたいと縫製工場にアクセスしようと、ウェブで調べてもなかなかいい情報が出てきません。結局それをうまくやっているのが、製造小売業や大手の小売業です。ただ、それだとどうしても横の連携ができず、情報が共有されません」
「そこでまずは整理されていない情報を、一つのプラットフォーム上に集約する必要があると思いました。服作りを発注したいユーザー側と縫製工場を最適な状態でつないでいくために、データベースに情報を束ねていく必要があったのです」
――服を作りたいユーザーと縫製工場の関係をどう最適化させればいいのでしょう。
「我々のユーザーさんは非常に多種多様で、小さなブランドさんから大手の小売りさんまでいらっしゃるのですが、50~100着程度の小ロットの製品をタイムリーに作っていくことが昔から変わらない課題になっています。トレンドが移り変わるスピードが非常に早い中、多品種小ロットの服作りを解決するための仕組みが求められています」
「一方で工場側は春先や夏の終わりに生産が偏っており、それ以外の閑散期の製造ラインをいかにして埋めるのかが課題になっています。我々がその閑散期を工場横断的に把握することができれば、適切にユーザーとマッチングさせ、製造ラインの運用のでこぼこを平準化させることができます。このように、ユーザーと工場の課題を同時に解決するのが、我々シタテルの使命だと思っています」
■ブランドと縫製工場をデジタルでマッチング
――実際のところ、ユーザーと工場をどのようにマッチングさせていますか。
「ユーザーからの発注を受けると、シタテルのコンシェルジュ役が、工場データベースを検索します。発注の際の条件を入力すると、そのときに稼働できる工場が表示されます。工場ごとに過去にどんなアイテムを受注したかや、単価、設備などの情報が一覧できます。ほかの稼働可能な工場とも比較できます。最も条件が合う工場とマッチングさせ、案件を発注するという流れです」
「また、ウェブ上でユーザー、工場の双方とチャットができるので、シタテル上に案件の情報がストックされていきます。こうした情報は、ユーザーと工場に共有されます。その際、重要なのがログが残るという点です。今まではファクスや電話で、いわゆる『言った、言わない』のようなトラブルが起きることもありましたが、ログが残ることで、こうしたミスがなくなりました」
――シタテルのユーザー数、国内の連携工場数はどれぐらいですか。
「ユーザー数はもうすぐ1万に届きそうです。アパレルメーカーから、一般企業、個人デザイナーの方などが登録しています。幅広く、50着から1万着の幅で注文をいただいています」
「また、データベースに入力されている縫製工場は5000工場。そのうち、密接にやりとりする連携工場は約600工場です。連携工場を早いペースで拡大するというよりも、今は1工場当たりの稼働を広げることに注力しています。そうすることで、価格の安定や品質の安定につながっていくからです」
■アパレル業界の在庫問題を一変させる
――完全受注生産の新しいサービスもローンチしました。
「『SPEC(スペック)』という、受注生産一体型コマースを開始しました。目的はアパレル業界の在庫問題を解決することです。アパレル業界では一般的に1000枚の服を作ったら、通常の形で売れるのは400枚、セールやアウトレットで400枚、残り200枚は焼却処分という比率。こうした慣行が長らく続いてきました。それを我々がD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)、つまり服を製造する企業が直接消費者に届ける形を提供することで、解決できればと思っています。
「例えば、電子商取引(EC)サイトをお持ちのクライアントさんにスペックを使っていただき、特設のサイトを設けてもらいます。ここで、商品ごとに販売する枚数を設定します。お客さんが商品を買うと、クライアントが設定した枚数に達した時点で、シタテルの連携工場で生産を開始するという仕組みです。結果的に在庫を出さないですみます。アパレル産業の在庫の問題を解決する可能性もあるサービスだと思っています」
――現状の課題と今後の展開はどうでしょうか。
「小ロットの問題は解決できてきましたが、逆に日本国内の工場だとボリュームのある生産がなかなか難しく、数万枚の受注などがきたときにどうしても限界があります。その課題を解決するために今はグローバルな形で海外の生産も稼働を開始しました」
「例えば、日本の生地は実は海外からの評価が非常に高い。そういったものを海外に発信していく必要があると思うので、大手のプレーヤーも巻き込んで、どんどん進めていきたいですね」
メーカー・外資系金融機関を経て、総合リスクマネジメント事業やシタテルの前身となる会社を設立後、2013年に米サンフランシスコ・シリコンバレーで世界の最前線のITを導入した流通システム・シェアリング事業開発などを学んだ。その際、M&A(合併・買収)やベンチャー企業を取り巻く法律などの知識も得た。帰国後の2014年、シタテルを設立。現在、熊本と東京を拠点に活動している。
《会社概要》
社名:シタテル 設立:2014年3月 所在地:本社 熊本県熊本市、東京支社 東京都渋谷区 従業員数:50名 事業内容:衣服生産プラットフォーム事業の運営、開発
文:FACY編集部 岩崎佑哉(https://facy.jp/) 写真:長井太一
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