インタビューに答えるセイン・カミュさん。Tシャツは妹である池田ジャスティーヌさんのデザインタレントのセイン・カミュさんにはもう一つ、別の顔がある。一般社団法人障がい者自立推進機構の理事として、障害を持つアーティストの創作活動を応援しているのだ。多くの人に作品を見てもらい、アーティストが報酬を受け取れるようにする取り組みで、参加のきっかけはセインさんの妹の絵が結んだ縁だった。「鳥肌が立つようだった」という体験を語ってもらった。
――現在の活動に取り組むようになったのは、どんな経緯からですか。
「きっかけは(障がい者自立推進機構の創業者理事である)松永昭弘さんとの出会いです。もう8~9年ぐらい前になるでしょうか。中小企業を応援する番組の仕事で、松永さんが経営する企業を取材する機会がありました。取材が終わって、社長室に招かれたときに絵を見せてもらったのです」
SOMPOパラリンアートカップ2018の応募作品のなかで、セインさんが最も印象に残ったという「勝利への執着」(作者は宝谷優さん)。損保ジャパン日本興亜賞(東京都)を受賞した「どこかで見た覚えがあるなとは思いましたが、口には出さずに、『作者は誰ですか』と聞いてみました。松永さんは絵の裏側を確認したうえで、教えてくれました。『池田ジャスティーヌさんだよ』『僕の妹です!』。それは鳥肌が立つような経験でした」
――妹さんが描いた絵を偶然、松永氏が持っていたのですね。
「僕の7歳下の妹は知的障害を持っていて、アートを手掛ける障害者が集まる施設に入っています。おふくろは妹にいろんなことをさせていて、その中で実りがありそうなのが絵でした。妹は絵が大好きでしたから。松永さんは妹のいる施設を訪問し、2000点近くある絵の中から4点を譲ってもらったそうです。その中の3点が妹の作品でした」
「それから僕は松永さんと友達になり、一緒に飲みに行ったり、遊びに行ったりする仲になりました。(障害者アーティストの経済的な自立を支援する)松永さんの活動にも賛同して、理事として(障がい者自立支援機構に)加わることになりました」
――どんなところに賛同したのですか。
「松永さんたちはチャリティー(慈善)ではなく、ビジネスモデルとして、絵が『売り物』になる仕組みを目指していました。それを通じて僕も妹の(アーティストとしての)活動の手伝いをしたいと思いましたし、少しでも妹にお金が入るようになればいいなという考えもありました」
「報酬の仕組みは統一されていて、フェアでガラス張りになっています。アーティストが作品を登録し、それが企業などに飾られると、企業などから報酬が支払われて、その利益を(障がい者自立推進機構とアーティストで)折半します。『お涙ちょうだい』で、寄付してくださいといっているのではないのです」
「日本では障害者について、腫れ物に触るような感覚が残っている」と語るセインさん――セインさんの役割は何ですか。
「僕はビジネスマンではないので、芸能人であることを利用して、注目を集めることぐらいしかできません。それでも障害を持つアーティストの作品がいろいろなところに展示されれば、多くの人たちが無意識のうちに作品に触れることになります。百聞は一見にしかずですからね」
――障がい者自立推進機構は毎年、障害者アートのコンテスト「SOMPOパラリンアートカップ」を実施しています。今年応募のあった854点の中で、セインさんの印象に最も残った作品はどれですか。
「たくさんあって絞りきれないのですが、例えば『勝利への執着』ですね。この熊、自然の中だったら、とっても怖いですよ。獲物を狙っていますから。でも、ゴーグルをつけることによって、人間性が出てくる。ゴーグルひとつで恐怖感がスポーツの臨場感に変わるのです」
「ゴーグルにプールが映っていますよね。ポイントはすべてゴーグルに絞られているんです。自然の中にいる怖い熊を描いているようでいて、ゴーグルを見れば、これはプールだとハッとさせられます。その瞬間、『逃げろ』という感覚から『がんばれよ』になる。この180度変わる『どんでん返し』が好きですね」
「SOMPOパラリンアートカップ2018」の受賞作は展示会で見られる(川崎市内で開催されたときの様子)――障害を持つアーティストが活躍できる環境は、海外と比べて日本は整っていますか。
「まだ、弱いですね。日本には、障害者は隠さないといけない、障害は恥じることという意識があったと思います。日本で障害者の活躍が注目されて、前に出てくるようになったのは最近のことです。まだ、日本では障害者に対する扱いは、腫れ物に触るような感覚が残っています。僕たちの活動を通じて、障害者アーティストと対面する機会が増えてくれば、接し方もわかってくると思います」
――2020年の東京五輪・パラリンピックにはどんなことを期待していますか。
「1964年の前回は、新幹線が開通するなど日本がものすごく変わっていることを、世界に見せる大会だったと思います。今回は、がんばって、余計に何かをしようとする必要はありません。力みすぎて、大会が終わったら力が抜けてしまうのではなく、継続していかなければいけないものがあるでしょう。日本にはすばらしい独特の文化や伝統があります。それを磨き続けて、本来のものが輝けば十分だと思います」
(聞き手は山根昭)
セイン・カミュ
1970年ニューヨーク生まれ。父親の仕事の都合でレバノン、エジプトなど世界各国を移り住み、6歳のときに来日。横浜にあるインターナショナルスクールに通った後、ニューヨーク州ホフストラ大学に進学。在学中の91年に再来日、エキストラやモデルを経て、現在タレントとして活動中。ノーベル賞作家で「異邦人」などで知られるフランスの文豪アルベール・カミュは大伯父。
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展示会のお知らせ 一般社団法人障がい者自立推進機構は12月7~9日、障害者アートのコンテスト「SOMPOパラリンアートカップ2018」の受賞作を、東京タワーのメインデッキ(大展望台)で展示します。同月8~14日は朝日新聞社東京本社コンコースで、17~23日には損保ジャパン日本興亜新宿本社ビルでも展示会を開きます。問い合わせは電話03-5565-7279(パラリンアートカップ2018運営事務局)まで。SOMPOパラリンアートカップは損害保険ジャパン日本興亜がトップスポンサーとなり、日本経済新聞社などがメディアパートナーを務めています。
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