健康・医療

from 日経Gooday

医師が処方するスマホ治療アプリ 薬・機器に次ぐ柱? 未来を変えるアンメット・メディカル・ニーズ最前線

日経Gooday

2018/12/16

ニコチン依存症の治療アプリ「CureApp禁煙」は、通常5回ある禁煙の診療の間にも治療をサポート。吸ってしまった本数、その日の気分や、プログラムの進捗状況をスマホで入力すると、適切なアドバイスが届いて、治療効果が高まる仕組み。
日経Gooday(グッデイ)

医療分野の満たされないニーズ(アンメット・メディカル・ニーズ)についての治療分野の革新に焦点を当てていく本シリーズ。今回は、スマートフォン(スマホ)のアプリが、医薬品や医療機器と同様に、医療効果を持つ「薬」となって処方される「治療アプリ」を取り上げる。既に臨床試験が実施中で、2019年にも承認されるとみられるのが、治療アプリの「CureApp禁煙」。開発を進めてきたキュア・アップ代表取締役の佐竹晃太医師に話を聞いた(聞き手・企画:藤井省吾=日経BP総研 メディカル・ヘルスラボ所長)。

◇  ◇  ◇

2018年9月4日付の日本経済新聞朝刊1面の安倍晋三首相の発言を紹介した記事で、「生涯現役」という言葉が見出しになった。それを実現するには、人々がいつまでも健康で働ける必要がある。ヘルスケア分野で医薬品や医療機器の革新には目覚ましいものがあるが、それだけでは足りないものがある。それが食事改善、運動習慣、禁煙など患者自身が行う生活改善だ。医師による生活指導はあるが、通院と通院の間には医療機関と患者の接点がなく、患者のモチベーションを維持することが難しかったといえる。

そこでキュア・アップ代表取締役の佐竹晃太医師が挑戦しているのは、患者にスマホのアプリを処方することで、通院と通院の間ずっと患者の生活改善をサポート。病気の改善につなげるという新たな治療法の開発だ。

キュア・アップ代表取締役で医師の佐竹晃太さん。医療とITを結びつける新ジャンル医療インフォマティクスを学び、修士号を取得。治療アプリの開発を進めてきた。(撮影:的野弘路)

――まず、佐竹さんが、こうした「治療アプリ」の可能性に気づいたきっかけについて教えてください。

佐竹 私が「治療アプリ」という存在に出合ったのは、米国に留学したときでした。2013年、医療ITをアカデミックに研究する「医療インフォマティクス」を学ぶために、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院に留学しました。そこで目を通した1本の論文によって、医療系テクノロジー企業「WellDoc」が開発したスマホアプリ「BlueStar」の存在を知ったのです。

■米国の治療アプリ「BlueStar」は新薬に匹敵する効果も

――どのようなアプリだったのですか。

佐竹 一言でいえば、糖尿病患者の行動変容を促すアプリです。患者は、日々の血糖値、食事の量、体重、運動量などのデータをスマホに入力します。データはクラウドに保存され、ソフトウエアが患者の状態を診断。患者の状態に合った生活改善のガイダンスをスマホに送ります。患者にとっては、今何をすべきかが明確に分かり、続けると食事・運動習慣など行動変容が起こるのです。

論文に掲載されていた臨床成績も驚くべきものでした。糖尿病の重症度を表す検査データの一つにヘモグロビンA1c値があります。「BlueStar」を使った人と、使わなかった人とを比べると1.2も差がありました。内科医が見れば糖尿病の新薬と同じぐらいの効果が出ていることが分かります。一介の医師である私にとって、病気の治療法といえば「薬」か「医療機器」しか頭にありませんでしたが、そこにスマホのアプリという第3の治療が登場したのです。

――この第3の治療は、米国ではヘルスケアビジネスの一つとして成り立っているのでしょうか。

佐竹 「BlueStar」は、FDA(米国食品医薬品局)では医療機器のなかの「治療アプリ」として承認を得ています。保険会社が保険適用を認めており、ビジネスとしてはまずまずの立ち上がりを見せています。そして今、米国では糖尿病以外にもいくつかの医療用ソフトウエア事業が進められています。今後、医療の一分野として大きく成長すると期待しています。

――「治療アプリ」は患者にとって心強い存在になりますが、入力データやアプリの評価項目を医師が常にチェックすることで、さまざまな慢性疾患の治療経過を「見える化」していくことにもつながりそうですね。

佐竹 医師にとって診察中の患者からは多くの情報が得られますが、通院と通院の間の期間は、患者がどういう生活をしているか、ブラックボックス状態でした。「治療アプリ」で得られる情報で、それが見える化していく。生活改善指導などより踏み込んだことが行えると思います。

■医学とIT、プログラムにも強い医師とタッグを組み開発

――佐竹さんは、米国から帰国後、国内で「治療アプリ」を実現するため、2014年に医療系テクノロジー・ベンチャー企業のキュア・アップを設立されました。現在は、ニコチン依存症治療アプリ「CureApp禁煙」の治験を実施中。NASH(非アルコール性脂肪肝炎)治療アプリ「NASH App」の臨床研究にも取り組んでいらっしゃいますが、開発は大変ではないですか。

佐竹 私にとっては初めてのことばかりでした。しかし、共同創業者の鈴木普は医師でもありながらバイオインフォマティクスの専門家でプログラマーでもありました。鈴木を筆頭にいいメンバーが集まり、アカデミアからみても優れたソフトウエアを開発することができました。ただ、医学とIT、2つのスペシャリティを密に結びつける環境を作り出すのは、やはり難しかったですね。

――2019年にも保険適用が期待されているニコチン依存症治療アプリ「CureApp禁煙」は、どのようなものなのですか。

健康・医療 新着記事

ALL CHANNEL