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インバウンド最前線

雪が招く外資マネー ニセコで土地急騰、立ち退く人も

2018/12/10 日本経済新聞 朝刊

街ですれ違うのは外国人がほとんどだ(北海道倶知安町)

北海道の「ニセコ地区」が外国人によって姿を変えている。パウダースノーを求めて世界中から集まるスキーヤーが外資を呼び込み、不動産投資が過熱。土地や住宅、ホテルが次々と外国人に買われていく。英語が飛び交う北の田舎町を取材した。

「Niseko」として知られる世界的なスキーリゾートは倶知安、ニセコ両町にまたがる。人口は倶知安町が約1万5千人、ニセコ町が5千人。これに対して、外国人観光客は両町合わせて年間27万人(2017年)に達する。

倶知安町では外国人による不動産投資が活況だ

新千歳空港で「快速エアポート」に乗りJR小樽駅で2両編成の函館本線の列車に乗り換える。終点の倶知安駅までは1時間30分。同駅で降りた十数人の乗客は全員がオーストラリアなど海外から来た若者だった。ニセコひらふ地区のスキー場で働くのが目的だ。ジョシュア・コーネルさん(21)は恋人と一緒にホテルのフロント係をする予定。「ニセコの雪は最高。3月まで働きながらスノーボードを楽しむ」と笑顔を見せた。

2000年代にオーストラリアで雪質の良さが話題となり、外国人客が一気に増えた。冬季は住民登録して半ば住み着く人も多く、倶知安町には18年3月時点で約1300人の登録があった。

ゲレンデの裾野にはホテルやコンドミニアムが並び、従業員宿舎のペンションがそれを取り囲む。周辺ではバーのメニューからドラッグストアの看板までほとんどが英語表記だ。

スキー場周辺では英語表記の看板が目についた

ゲレンデへ向かって伸びるメインストリートで聞こえてくるのは英語の会話ばかりだった。

「地価上昇で昔から住んでいる人が土地を売り払い、誰もいなくなった」とスキー場エリアの中心部で和食店を営む佐藤勝次さん(64)。観光の外国人、宿泊施設で働く外国人。彼らのニーズを狙った外国資本による不動産投資が過熱する。

オーストラリアに加え、この10年間で、シンガポール、中国、香港などアジア諸国からの投資が増えている。

不動産会社の男性(25)は「不便でも荒れ地でも物件さえ用意できれば必ず売れる。スキー場周辺の取引相手は9割が外国人」。働く外国人向けのペンションを建てればすぐに満室。月20万円の部屋の予約は来シーズン分もいっぱいだ。「1000万円の物件が翌シーズンには1500万円で売れる」。ゲレンデに近い場所では坪単価が200万円以上の土地もある。

スキー場エリアで膨らむバブルの影響は倶知安駅周辺にも及ぶ。不動産業の福島世二さん(76)は15年まで倶知安町長を務めた。「札幌より賃料が高く、家を買おうと思っても手が出ない。固定資産税も上がった」。住民が家を売り、札幌市のマンションに移る動きも出ているという。

18年の公示地価で全国の上昇率ランキングのトップ3を倶知安町の地点が独占。不動産業者は増え、現在は20社以上が営業中だ。住宅街には外国人向けに新築された簡易なつくりのアパートが並ぶ。町長時代、観光誘致のために何度も海外に渡った福島さん。「これほど土地が買われるとは思わなかった。全く予想外の事態だ」

町観光課の福家朋裕課長は税収増などの効果は歓迎するが「過度な開発は豊かな自然を損なう。行政が制御できる時期は過ぎてしまったかもしれない」と話した。

インバウンド消費は経済の好調を保つのに欠かせないが、小さな街でそれが極端に振れたとき、街づくりや住民生活に思わぬ影を落とすことがある。

(鈴木卓郎)

[日本経済新聞朝刊2018年12月3日付]

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