画像はイメージ=PIXTA給与の増え方が、2009年を底にして大幅に増えています。そんな状況で私たちは、あらためて会社の評価を気にしてみても良いかもしれません。
■増え幅が2009年の倍近くなった給与
毎年の給与の増え幅について、厚生労働省は「賃金引上げ等の実態に関する調査」を行っています。その調査結果を時系列でみると、大幅に改善していることがわかります。
※厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」より作成2009年の平均賃金改定額は3083円でしたが、2017年の最新データでは5627円の賃金改定がされています。
もちろんこれは平均値であり、すべての企業が給与を増やしているわけではありません。
企業規模別で見ると、従業員5000人以上の会社での増え幅が最も大きく7000円近い昇給となっています。また1000人~4999人規模では逆に増え幅が微減している状況も読み取れます(とはいえ5000円は昇給しているのですが)。
ただ、300人以下の比較的小規模な企業でも給与の増え幅が大きくなっていることから、景気改善の傾向が給与に反映されていることは間違いなさそうです。
ちなみに業界別に見た場合、平均以上に給与を増やしているのは以下の6業界です。
(1)建設業 8411円
(2)不動産業、物品賃貸業 6341円
(3)情報通信業 6269円
(4)製造業 6073円
(5)学術研究、専門・技術サービス業 5845円
(6)金融業、保険業 5802円
これらの業界を見て、まあそうだよな、と実感できる方も多いのではないでしょうか。
私が『出世する人は人事評価を気にしない』(日経プレミアシリーズ)という本を書かせていただいたのが2014年10月でした。そのタイミングでは統計データとしては2013年までのものがあったわけですが、2013年の昇給額は4375円。今ではそれよりも1300円近く給与が増えるようになっています。たかだか1300円、と思われる方もいるかもしれませんが、会社の仕組みさえしっかり理解しておけば、確実に得られるのが昇給です。
そこで理解しておくべき会社の仕組みが、まさに人事評価です。
■人事評価は、差をつける仕組みからメッセージに変わっている
しかし人事評価に対して否定的な印象を持っている人が多いのもまた事実です。
「納得できない」「公平じゃない」という言葉が最もよく聞く不満です。周囲の同僚たちと比べて自分の評価が高くない、というように感じる人が多いようです。あるいは、自分としては精いっぱいやってみた結果に対して、せいぜい標準的な評価しか得られなかった場合にも不満を持ったりします。
そもそも日本の多くの企業における人事評価の仕組みは、バブル崩壊後の1990年代に「差をつける仕組み」として設計されたものが大半でした。それまでは誰でも毎年1万円昇給させていたけれど、昇給の原資が半分になってしまった。だからできる人は7500円昇給させ、普通の人を5000円昇給させ、できない人は2500円昇給させるような仕組みとして設計されたからです。
しかし現在、この仕組みが大きく変わりつつあります。
差をつける仕組みとは、限られた人件費原資を奪い合うために作られたものです。これは言い換えると、結果が出てからその中でどう配分するかを考える、後出しの仕組みです。
しかし現在の人事評価は、後出しではなく先出しの仕組みとして設計することが増えました。結果が出てから考えるのではなく、結果を出すための行動に力を注ぐ仕組みとして設計されるようになったのです。
たとえばヤフーが導入した1on1ミーティングは、目標達成のためのフィードバック面談手法として広まりつつあります。
また、全社目標をチームや個人に落とし込む手法としては、マトリクス型KPI管理(セレクションアンドバリエーション)などがあります。
結果が出てからその配分を考えるのではなく、そもそもの結果を増やすための行動に力を注ぐことがイマドキの人事評価の仕組みです。それは人事評価の仕組みが、閉塞的な資源配分のためではなく、成長を志向したマネジメントツールとして発展していることでもあるのです。
■3つのポイントで自社の人事評価の仕組みを読み解いてみる
ですから、今のタイミングで、あらためて自社の人事評価の仕組みがどうなっているのかを確認してみてはいかがでしょう。
その際にポイントは3つあります。
第一のポイントは業績を評価する仕組みです。
業績を評価する仕組みは、たとえば売上額に応じたインセンティブを計算する仕組みになっていたり、単位時間当たりの売上効率を計算する仕組みになっていたりする場合もあります。
あなたの会社の業績を評価する仕組みは、そのまま、会社がどんな指標を重視しているのか、というメッセージになっています。それは短期的に実現してほしい成果のために整備されることが多いのです。
売上額が業績評価の指標であれば、それはそのまま売上額が第一である、というメッセージです。あたりまえ、と思われるかもしれませんが、これは「利益や効率性よりも売り上げが大事」というメッセージとして読み取ることもできる極端なメッセージなのです。だから実際には売り上げだけを評価指標にしている会社は多くありません。一般的には、売り上げから原価を差し引いた粗利などを評価指標にしていますが、それは売り上げだけでなく原価も意識してほしいというメッセージです。
第二のポイントは業績を実現するためのプロセスを評価する仕組みです。
行動心理学の観点からは、結果を評価するよりプロセスを評価する方が、良い行動の再現性が高まるといいます。だからプロセス評価の仕組みがある会社は、業績評価だけの会社よりも、従業員の成長を期待している会社です。それは中期的な成果を実現することを目指しているというメッセージもあるのです。
ただし、プロセス評価は職種や業種によって多岐にわたっています。ですから多くの会社のプロセス評価は、目標管理制度の一部として、目標達成のためのアクションプランを明確にする仕組みとして機能しているはずです。
そのため、もしあなたがプロセス評価を意識するのなら、なにをどのようにすれば結果を実現できるのか、ということについて工夫を重ねるとよいのです。
そして第三のポイントは行動や能力を評価する仕組みです。
行動や能力を評価する仕組みを持つ会社は、業績結果やそのためのプロセス評価よりも、もう少し気の長いことを考えて従業員を評価しようとしています。
それは長い期間をかけての従業員の育成です。
だから行動や能力を評価する仕組みがある場合には、その基準を丁寧に読み解いて、自分自身の成長の指針にしてみてください。
もし意図がわからないものがあれば、上司や人事部に確認しましょう。
また、行動や能力を評価する会社では、教育制度も整備しようとする場合があります。だとすればチャンスです。ぜひそれらの教育の仕組みを活用すべきです。
これら3つの人事評価の仕組みについての確認を行うことで、会社があなたに何を期待しているのかが具体的にわかってきます。そしてそれは、目の前の評価結果を良くして給与を増やすだけでなく、あなた自身が短期・中期・長期でどのような成長を実現していけばよいのか、ということの指針にもなるのです。
平康慶浩セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年から現職。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。高度人材養成機構理事リーダーシップ開発センター長。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。