大ヒット健康茶 類似品続出をデザイン一新で乗り切る
こやま園の「丹波なた豆茶」は、無農薬で育てた丹波産なた豆100%で作る健康茶だ。丹波地方では昔から、なた豆で作ったお茶は血液の浄化作用があるとして愛飲されていた。けれども、なた豆の栽培は容易ではなく、いつしか誰も作らなくなってしまったという。
兵庫県丹波市にあるこやま園の小山伸洋社長は2000年ころから、なた豆の効能・効果や食べ方、栽培方法などの研究を開始。無農薬でなた豆の栽培を始め、03年から「丹波なた豆茶」と名付けて製造、販売するようになった。近年、なた豆に多く含まれるコンカナバリンAという成分が腎臓の「ろ過機能」を修復することが発見され、腎機能の改善をはじめ、むくみ予防や血行促進、歯周病、鼻炎などの症状を緩和する効能もあることが分かっている。
そんな丹波なた豆茶の評判は口コミで広がり、04年にテレビの全国放送で紹介されると、注文が殺到。丹波なた豆茶の知名度は一気に高まった。
だが、「大量生産する体制が整っておらず、半年以上待ってもらっていた」と小山社長は振り返る。なた豆の栽培に協力してくれる契約農家を増やしていき、量産できる体制を整えていったという。
小山社長がGRAPHの北川一成氏と出会ったのは、本格的に量産化を始める直前だった。北川氏がブランディングを担当することになり、13年にロゴ・マークとパッケージをリニューアルした。「特に海外の展示会では、パッケージに興味を持ってブースに立ち寄ってくれる人が増えた。売り上げは毎年伸び続けており、累計3億杯分以上、販売している」(小山社長)。地元独自の資源を使って、地域を活性化している優良事例を政府が表彰する、2018年度「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」に認定され、特別賞「プロデュース賞」も受賞。地元農家と連携した生産方法や、海外展開、売り上げの増加、丹波ブランドの知名度向上に貢献したことなどが評価された。
課題:後発の競合商品との差異化
小山社長は、12年に都内で開催された「スーパーマーケットトレードショー」に出展し、その会場でGRAPHと知り合ったという。こやま園で働くスタッフがGRAPHや北川氏の活躍を知っていたことから、かねてよりリニューアルが必要だと感じていた丹波なた豆茶のロゴ・マークのデザインを依頼したという。
それに対して北川氏はロゴ・マークを新たにデザインするだけでなく、パッケージデザインも見直すべきだと考えた。それは、丹波なた豆茶は「なた豆茶」という健康茶の新たな市場を作った先発商品であるにもかかわらず、次々に登場する競合商品の中に埋もれているように感じたからだ。リニューアル前のパッケージは、筆文字を使った和風なデザインで、健康茶らしい表現だった。逆に言えば、誰もが思いつくような素直なデザインでもあった。そのため、後発の競合商品のパッケージも似たようなデザインが多かった。
こやま園の丹波なた豆茶は、農薬や化学肥料を一切使わずに育てた丹波産のなた豆を100%使用している。だが、パッケージからは高品質なお茶であることが伝わりづらいという課題もあった。北川氏はそのことも指摘した。
検討:海外で通用する日本らしさ
北川氏はまず、こやま園のシンボルとなるマークのデザインから取りかかったという。「マークは言語に頼らないコミュニケーションが可能だ。こやま園を象徴する独自のマークがあれば、有機栽培によるなた豆を100%使用した品質の高い商品の証しにもなると考えた」(北川氏)。丹波なた豆茶というロゴとパッケージについては、競合商品とデザインが類似しないように「手書き風の筆文字」は使用しないと決めたという。
小山社長は12年から、営業活動の一環として海外の展示会にも出展し、なた豆茶を米国や香港などでも販売していた。そこで、北川氏は海外の人が「今」の日本らしさを感じるデザインを内包するべきだと考えたという。「禅からイメージする、シンプルで機能的な無駄のないデザインを目指すことにした」(北川氏)
商品の特徴である「100%なた豆を使用」していることや「有機栽培」をしていることなどは、あえて強くアピールしないことを提案。それは、こやま園にとって有機栽培は当然のことだからだ。「例えば、日ごろは農薬を使って、一部のなた豆だけ有機栽培をしているような場合は強調したくなるだろう。そうした商品との違いを明確にするためにも、あえて淡々と表示することにした」(北川氏)という。
解決策:まねされない直感的なデザイン
こやま園のマークは、「こやま(小山)」の「小」をモチーフにデザインした。よく見るとマークは左右非対称で、左の丸にはなた豆のツルが伸び始めたような突起が付いている。なた豆は「ジャックと豆の木」の豆のモデルになったといわれていることから、マークの下には「JACK BEAN TEA」というロゴを入れている。
丹波なた豆茶というロゴはイラストのような、かわいらしいデザインだ。「手書きではあるが、書のイメージにならないように、絵を描くような感覚でデザインした」(北川氏)。
パッケージデザインは、縦組みと横組みを混在させている。海外での展開を踏まえ、日本語が分からない人が見たときに「今の日本らしさ」を感じられるように工夫した。北川氏のデザインは、論理的な裏付けがありつつ、直感的でもあり、まねされにくい点が特徴だ。まねようとしても、バランスの悪いデザインになってしまう。
「合理的なモダンデザインのルールをあえてはずし、余白や間(ま)で日本らしさを表現した。とはいえ、闇雲にレイアウトしているわけではなく、自分なりの感覚とルールに基づいている」と北川氏は話す。
(ライター 西山薫)
[日経クロストレンド 2018年11月12日の記事を再構成]
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