拡大する男性コスメ市場 インスタ映えする肌がほしい
肌や髪のケア、体臭の対策に関心を持つ男性が増え、男性用コスメティック(化粧品)の売り上げが伸びています。
調査会社の富士経済(東京・中央)によると2018年の男性コスメ市場は1175億円となり、昨年に比べ約2%、10年前の08年に比べると約22%増える見込みです。けん引役はフェースケアとボディーケア製品で、10年前に比べ売り上げがそれぞれ1.5倍、3.5倍に増えそうです。今後も好調を維持し、20年には全体で1191億円まで増えると予測しています。
同社の檜山美珠希氏は様々な要因を挙げています。職場の変化はその一つです。女性の社会進出が進むなかで、各年代の男性が体臭対策やスキンケアを意識するようになったとみています。加えて、2年ほど前から「ジェンダーレス」がファッションやライフスタイルのキーワードとなり、美容に関心を持つ男性が急増しています。写真を共有するインスタグラムが浸透し、若年層の男性を中心にスキンケアに対する関心が高まっている影響もあるようです。
成長市場を狙う動きも活発になってきました。男性用カミソリ大手のシック・ジャパン(東京・品川)は10月、男性向けスキンケアシリーズ「シック ハイドロ」を発売しました。全国のドラッグストアや量販店では、ひげそり前の洗顔剤、ひげそり後の化粧水と乳液がカミソリと同じ売り場に並んでいます。同社は男性スキンケア事業をカミソリ事業に次ぐ成長の柱と位置づけています。
同社が9~10月に首都圏に住む20~49歳のひげそりをしている男性(618人)を対象に実施した調査では、約4割の男性がなおスキンケアをしていない一方、「毛穴が目立たないツルリとした肌」になりたいと考えている人が多い実態が明らかになりました。マーケティング統括責任者の野吾雅史氏は「顔を洗った後、カミソリでひげをそって肌の余分な角質を取り除き、水分を吸収しやすい状態にしたうえで化粧水や乳液で肌を潤すという3ステップを定着させたい。清潔感が増し、見栄えがよくなれば、自信にもつながるはず」と話しています。
健康・医療関連のPRやコンサルティングを手掛けるジェイアンドティプランニング(東京・渋谷)代表の市川純子氏は「男性にとって美容はかつて『格好良く見られる』ためのファッションの延長で、一部のおしゃれな人のためのものだったが、最近は多くの男性が美容を意識している。インターネットで美容情報を集める男性も多くなっており、男性コスメティックの種類や売り上げはさらに増える」と予想しています。
市川純子・ジェイアンドティプランニング代表「インスタグラムが影響」
男性のスキンケア、ボディーケア、ヘアケア用製品の市場が拡大しています。健康・医療関連のPRやコンサルティングを手掛けるジェイアンドティプランニング(東京・渋谷)代表の市川純子氏に男性美容の変遷を聞きました。
――男性の美容に対する意識はどのように変化してきたのでしょうか。
「1970年代の男性美容は『みだしなみ』を整えるのが目的で、さっぱりした使用感のあるシャンプーがビジネスマンの人気を集めました。80年代になると、男性美容が若者に広がり、女性にモテるための、見た目重視の傾向が強まります。ファッションの延長としての美容で、一部のおしゃれな人のものでした。90年代にはカリスマ美容師のブームが到来します。ビジュアルバンドもブームになり、髪の色素を抜いたり、メークをしたりする男性も増えます」
――この時期までは男性美容に関心を持つ人は、なお一部とのイメージもあります。
「大きな変化が起きたのが、2000年代です。インターネットが普及して男性美容に関する情報が拡散しました。スキンケアだけでなく紫外線(UV)ケア、ネイルケア、眉カットをする男性も増えています。男性美容雑誌の創刊も相次ぎました。男性が美容に関する情報を積極的に求める時代が到来したといえます」
「2010年代に入ると、美容の『ジェンダーレス』化が進みます。エステティックや永久脱毛など女性だけだと思われていた美容法にトライする男性も出てきました。ドラッグストアに男性用コーナーができ、スキンケアやヘアケア商品を入手しやすくなったことも、コスメティック市場の拡大を後押ししています。最近、特に影響が大きいのはインスタグラムです。自分の顔写真を見る機会が多くなるにつれ、若年層を中心に美肌になりたい男性が増えています」
――女性の社会進出で、男性がスキンケアやヘアケアに気を使うようになったとの見方もあります。
「働く男性が意識しているのは同性も含めた周囲の目です。スキンケアやヘアケア、体臭の対策を万全にして『仕事ができそう』と周囲に見られたいという声をよく聞きます。企業の間でクールビズやウォームビズが広がり、髪形や衣服のセンスが問われていると感じる人も増えています。若年層に大きな影響を与えているのが就職活動です。面接で自分がどう見られるのかを意識する癖がつき、美容に気を使うようになっています」
(編集委員 前田裕之)
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