U22

池上彰の大岡山通信

仲間と議論し、世界を広げて グローバル時代に学ぶ(下) 池上彰の大岡山通信 若者たちへ

2018/11/26

一般の高校生や大学生などを対象に、グローバル時代の学び方や生き方について行った講演の最終回です。若者たちから、科学技術、国際情勢を巡るさまざまな疑問が寄せられました。一部を紹介します。ぜひ一緒に考えてみてください。

「AIが人間の仕事を奪う」

〈質問〉 人工知能(AI)が普及し、無くなる仕事もあるようです。将来、どんな職業を選べばよいでしょう。

〈池上教授〉 「AIが人間の仕事を奪う」という指摘が増えてきました。確かに、AIに置き換わる仕事もあるでしょう。ただ、いまの子どもたちが働き始めるころ、現在は存在しない仕事が生まれているかもしれません。

「どの職業を選ぶか」ではなく、「どんな働き方をしたいのか」と考えてみてはどうでしょう。興味のある仕事があるなら、実現するため、アルバイトや職業体験を積んでおくのもいいでしょう。自らビジネスをつくって起業する道もありますね。

池上氏は「自らの人生に問いを立て、その答えを求めて」と強調した(10月21日、東京都豊島区の立教大池袋キャンパス)

〈質問〉 選挙の投票は義務化した方がよいと思いますか。

〈池上教授〉 確かに、投票率を上げるためには法律で投票を義務化した方がよいかもしれません。でも、実際に法律を導入したある国では、投票後に有権者に質問したところ、「誰に投票したのか忘れてしまった」と答えた人が続出したそうです。

これに対し、アメリカのように有権者が投票前に自らの権利を登録する仕組みもあります。私たちにとって、投票権があることが当たり前なのではなく、自らの権利として自覚し、行使することが大切なのではないでしょうか。

ありえないと思われた「アメリカのトランプ大統領の誕生」と「イギリスの欧州連合(EU)離脱支持」が現実になりました。人々が「起こるはずがない」と考え、投票に行かなかったせいだとも指摘されています。民意を巡る歴史的なできごとでした。

〈質問〉 EU加盟国にとってイギリスの離脱はどんな影響があるでしょうか。

〈池上教授〉 イギリスは経済規模が大きいうえに、国際金融の重要な役割を果たしています。イギリスに拠点を置くグローバル企業の欧州戦略や、イギリスと加盟国との輸出入、金融取引などの手続きにも大きな影響があるでしょう。

ドイツやフランスなどは、本音ではイギリスに離れてほしくないのでしょう。再び加盟できる余地をつくっておきたいのではないでしょうか。その一方で、他の加盟国が離脱しないよう、イギリスには厳しい態度で臨まざるをえないのです。

メディアの役割の一つは権力の監視

11月7日、米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(右)と、質問するCNNのジム・アコスタ記者(左端)=ロイター共同

〈質問〉 中国経済が悪化し、崩壊するような事態は考えられますか。

〈池上教授〉 一時的な景気悪化や経済成長率の落ち込みはあっても、崩壊することはないでしょう。広域経済圏構想「一帯一路」や、アジアインフラ投資銀行(AIIB)など、海外経済との結びつきも強めています。

トランプ米大統領が「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げて、国益を最優先しています。世界に対する発言力や影響力には関心がないようです。その間隙を縫って、アメリカが消えた空白を中国が埋めようとしているように見えます。

〈質問〉 日本では「報道の自由」が揺らいでいないのでしょうか。

〈池上教授〉 国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」(本部パリ)が発表した、世界180カ国・地域を対象にした「2018年の報道の自由度ランキング」によれば、日本は67位でした。先進7カ国(G7)では最下位でした。

それでも、日本には「報道の自由」について広く議論できる余地があります。メディアの役割は権力の監視です。心配なのは、権力者やその関係者の顔色をうかがい、厳しい批判ができなくなる事態です。つまり、メディアの忖度(そんたく)です。「中立公正」を忘れず、さまざまな視点から伝え続けることが重要です。

いけがみ・あきら 東京工業大学特命教授。1950年(昭25年)生まれ。73年にNHKに記者として入局。94年から11年間「週刊こどもニュース」担当。2005年に独立。主な著書に「池上彰のやさしい経済学」(日本経済新聞出版社)、「池上彰の18歳からの教養講座」(同)、「池上彰の世界はどこに向かうのか」(同)、新著「池上彰の未来を拓く君たちへ」(同)。長野県出身。68歳。

アメリカでは、CNNやニューヨーク・タイムズなど有力メディアが、トランプ政権に厳しい報道姿勢を貫いています。メディアが権力から自立していることが大切です。

今回、若者たちがAIに未知の可能性を感じる一方、自分自身の将来に不安を抱いていることがわかりました。でも、「どんな世界にしたいのか」「どんな人生を歩むのか」という問題意識を持つのは、AIではなく人間なのだと思います。

自らの人生に問いを立て、その答えを求めていくのは君たち自身のためなのです。大学で学ぶ意味のひとつは、世界を知り、仲間と議論し、経験を積んでいくことだと考えています。一緒に考えていきましょう。

[日経電子版2018年11月26日付]

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