スラムで踊るケニアの少女 若きバレリーナ夢輝かす
ケニアの首都ナイロビで最大のスラム街がキベラだ。その一角で将来のバレリーナを夢見て少女たちが踊る。ナイロビを拠点に活動するスウェーデンの写真家フレデリック・レアネルド氏は、18カ月にわたり、バレエを教えるマイク・ワマヤ先生と、その教室に通う少女たちを撮影した。
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「スプルジョンズ・アカデミー」では毎週水曜日の午後、終業のベルとともに、セメントの壁に囲まれた教室がバレエスタジオに変身する。約20人の女生徒が机と椅子を片付け、床をほうきで掃き、青やピンク、紫色のレオタードを着て先生を待つ。そこへ、温厚なマイク・ワマヤ先生がラジカセを持ってやってきた。クラシック音楽が室内に満ち、少女たちは踊り始める。
ワマヤ先生と少女たちを撮影したレアネルド氏は、水曜日のバレエレッスンを20数回見学した。初め少女たちは緊張した面持ちだったが、「次第に私の存在に慣れ、写真を撮られることにも慣れてきました」という。
レアネルド氏が、スラム街のバレエ教室に引かれたのは、その対照性だった。「私にとってバレエは、上流社会のダンスという印象がありました。キベラのような地域でまさかバレエを見られるとは思ってもいませんでした」。視覚的にも、薄暗い教室にレオタードやタイツなどの衣装が華やかな彩りを添える。「これは、彼女たちを待ち受けるキベラでの日常生活よりも、もっと大きな何かを達成できるという夢や希望の物語なのです」と、レアネルド氏は強調する。
レアネルド氏が撮影した少女たちは、子供たちへの芸術教育を推進する慈善団体「ワン・ファイン・デー」と「アンノズ・アフリカ」の支援を受けている。レアネルド氏も、可能な範囲で協力するようにした。少女たちを、ナイロビの同居人たちと一緒に昼食に招いたり、ウェンディという少女とその家族にアイスクリームをふるまったりした。「当たり前のことだと思っています。彼女たちと私たちの状況はあまりに違いすぎますから」。自分とキベラに住む人々の間にある物質的な格差について、レアネルド氏はそう語った。
16歳のパメラ・アディアンボさんは、子供のころテレビで見たバレエがずっと忘れられなかった。それから何年もたってアンノズ・アフリカがスプルジョンズ・アカデミーへやってきたとき、試しにトウシューズを履いてみたところ、たちまちその魅力に取りつかれた。現在パメラさんは、プロのダンサーになりたいという夢に向かって着実に歩んでいる。アンノズ・アフリカと協力する「アーティスト・フォー・アフリカ」の支援金を受け、ナイロビの寄宿学校で生活しながら、プロのダンススタジオ「ダンス・センター・ケニア」で週5日のレッスンに励んでいる。
「ダンスを通して、パメラは自分の人生を大きく変えたのです」。彼女は、ほかの子供たちの希望だ。トレーニングが休みに入り、自宅へ戻ったパメラさんが裏庭で練習を続けていると、ワマヤ先生のレッスンを受けている少女がその様子を見にやってきた。「この子もまた、パメラと同じ道をたどりたいと願っているのです」と、レアネルド氏はいう。
レアネルド氏は、彼女たちと過ごすうちに、ダンスを通して自分を表現することを学び、自信をつけていく過程を目の当たりにした。練習中、何も履いていない6組の足が一斉に宙に跳ね上がった瞬間をとらえた写真がある。キベラという狭い宇宙を超え、新たなその先へ到達しようと努力する少女たちを象徴する1枚だ。
「ここで成長する子供の抱く夢だって、世界中の子供たちと同じですよ」。レアネルド氏はそう語った。
次ページでも、夢に向かい踊る少女たちの姿を、レアネルド氏の写真でお届けしよう。
(文 Sarah Stacke、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年3月1日付記事を再構成]
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