VRモデルがファッション界変える 3Dで着こなし自在
人工知能(AI)や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)など科学技術の急速な進化は日常生活を大きく変えつつあるが、ファッションの現場でも、CG(コンピューターグラフィックス)や3D技術で作成した「バーチャルモデル」が登場して話題になっている。背景には若い世代にアピールし、ブランドイメージを刷新する狙いがあるようだ。
ブランドイメージ刷新、若年層にアピール
8月末、パリのファッション界に衝撃が走った。高級ブランド「バルマン」の気鋭デザイナー、オリヴィエ・ルスタンが2018年秋冬向けコレクションの販促キャンペーンにCGや3D技術で作成した3人のバーチャルモデル(デジタルモデルとも呼ばれる)を起用すると発表したからだ。
このバーチャルモデルは白人、黒人、アジア人の女性3人でそれぞれの名前をマーゴット(Margot)、シュードゥ(Shudu)、ジィー(Zhi)という。ロンドン在住の写真家が、世界で活躍する様々な有名人の容姿を土台にして作成した架空のキャラクターだ。
きっかけは黒人のシュードゥ。3人のうち最初の17年に試験的に作成され、宝飾ブランドや化粧品ブランドなどの広告に使われていた。これに注目したルスタンが、複数のバーチャルモデルをユニットとして「バルマン」に起用したいと同写真家に打診したのだ。
今回のキャンペーンに向けて新たに白人のマーゴットとアジア人のジィーが作成され、3人のモデルユニット「バーチャル・バルマン・アーミー」を結成。インターネットの仮想空間で「バルマン」の服や服飾品を身に付け、静止画や動画を通じて商品やコーディネートを紹介している。
3人とも架空の人物だが、肌、髪の質感や目の表情がかなりリアルで人格さえ感じる。ちなみにシュードゥのインスタグラムのアカウント(肩書は「世界初のデジタル・スーパーモデル」)には約15万人のフォロワーがおり、まるで実在する人間の人気モデルのように固定ファンも付いている。「バーチャルモデルの可能性をさらに追求したい」(ルスタン)と期待を膨らます。
「バルマン」がバーチャルモデルを起用した背景には、固定化しがちなブランドイメージを刷新し、今後のビジネスの成長に欠かせない若者など新規顧客層を取り込もうという狙いがある。若い世代はネットの利用頻度が高く、ビデオゲームなどを通じて仮想空間や仮想キャラクターへの抵抗感が少ない。話題作りにもなるので「バーチャルモデルの起用が若者層への浸透に有効」と判断したようだ。
もちろん実際に服を着た際の見栄えや色味、デザインの調和などを自分の目で確認するためには生身の人間モデルにかなわない部分はあるかもしれない。だがパソコン画面で閲覧する場合、バーチャルモデルを使った方が便利なことも多い。
バーチャルとリアル、互いに補完も
たとえば3D技術を応用すれば、画面で立体的な着こなしを自由に確認できるし、色やデザイン、組み合わせなどを瞬時に変えることも可能になる。商品のマーケティングに役立つ閲覧者との情報交換や属性分析なども容易だ。
バーチャルモデルの台頭について、ファッション界では様々な意見が飛び交っている。デザイナーの間では「PRの手法の可能性を広げた興味深い試み」と肯定的な意見が出る一方、モデル業界の一部では「仕事を奪われかねない」と警戒感が広がっている。「実際にショーなどで作品を紹介するにはやはり生身の人間をモデルに使わざるを得ない」という声も漏れる。
モデルはバーチャルか、リアルか――。二者択一ではなく、双方の欠点を補い、互いの良さを伸ばしながら共存する可能性を業界全体が模索すべきなのかもしれない。
(編集委員 小林明)
[日本経済新聞夕刊2018年11月17日付]
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