温度差目立つ「女性活躍」 設計図引き直しを
ダイバーシティ進化論(水無田気流)
第4次安倍改造内閣が発足した。今回、女性閣僚は片山さつき地方創生相ただ一人。記者会見でその点を聞かれ、安倍晋三首相は「女性活躍はまだ始まったばかり」と答えたが進捗はいかに。早いもので本欄の私の執筆は今回が年内最後。そこで、ここまでの「女性活躍」を総括したい。
安倍政権で「女性活躍」が最も注目されたのは2013年に成長戦略に掲げたときだろう。15年成立の女性活躍推進法では大企業に女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画策定を義務付けた。厚生労働省は101人以上300人以下の企業にも計画をつくるよう検討を開始。中小企業の経営者からは負担の大きさを理由に反対意見が出た。
つくづく、「女性活躍」への視線は立場により温度差がある。人手不足や社会構造の変化から、能力のある人材は性別を問わず登用したいと考える経営者は着実に増えている。他方、現場の管理職は、女性の育成や登用に不慣れな場合があり、当惑も大きい。
当の女性たちの受け止め方も千差万別だ。職種や転勤の有無で「総合職・一般職」などに分けて処遇するコース別管理制度は、常用労働者数5000人以上の企業で52.8%(厚労省「雇用均等基本調査」17年度)が導入。幹部への起用なしを前提に働いてきた一般職の女性たちには「今さら活躍と言われても……」との戸惑いもあろう。「変わること」への現場の負担感は大きな障壁である。
社会に目を向ければ、保育を受けられない待機児童の問題も残る。政府の女性関連政策を総合すると、女性に旧来の家庭責任と、現行での男性の働き方を基準とした「活躍」を同時に求めるという、実現困難な像が浮き彫りになる。
旧約聖書の「バベルの塔」を想起した。人々は無謀にも実現不可能な天へ届く塔の建造を試みた。神の怒りを買って塔は破壊され、人々の言語はばらばらにされたとか。ここで思う。実は人々の言葉はもともと多様だったのではないのか。
多様な思いや欲望を無視して、「いいとこどり」の政策を推し進めれば、頓挫は必至だ。そもそも女性活躍は、女性だけの問題ではない。男性も含め、社会の変化に即した「就労・家庭生活・余暇」再編こそが問われよう。それには、ただ一つの塔ではなく、多様な住居群が立ち並び協業し得るような、設計図の引き直しが必要ではないのか。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2018年8月6日付]
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