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女子駅伝「はってでも…」は美談じゃない(有森裕子)

日経Gooday

2018/11/28

写真はイメージ=(c)Vadim Guzhva-123RF
日経Gooday(グッデイ)

いよいよ今年も残すところ1カ月余となりました。休日には全国各地で開催されるレースに出場されるランナーもいるでしょう。寒さも少しずつ厳しくなってきますので、くれぐれも体調管理には気をつけましょう。

私もつい先日、11月11日に故郷・岡山県で開催された「おかやまマラソン2018」に出場してきました。2018年は西日本豪雨災害が起こり、岡山県でも多くの方が被災されました(関連記事:「有森裕子 相次ぐ災害で考えるチャリティーランの意義」)。まだ以前の暮らしを取り戻せていない方もたくさんいらっしゃいます。

そこで今年のおかやまマラソンでは、チャリティゼッケンを企画しました。「がんばろう!岡山」というロゴが入ったゼッケンを1枚1000円で販売し、購入していただいたランナーには被災地に向けた応援メッセージを書いて走っていただき、その売上金を被災地に寄付するというものです。

私自身、これまで何度もチャリティマラソンに関わらせていただきましたが、まさか故郷の災害に向けたチャリティに参加することになるとは思ってもいませんでした。そうした面では複雑な気持ちでしたが、おかやまマラソンのお話は回を改めてご紹介しようと思います。

■「はってでもタスキを渡す」行為は美談でも何でもない

さて話は変わりますが、10月21日に福岡県で開催されたプリンセス駅伝(第4回全日本実業団対抗女子駅伝予選会)で、選手の「四つんばい」問題がテレビやネットメディアで大きく報道されたことをご存じの方も多いと思います。

2区(3.6km)に出走した岩谷産業の飯田怜選手が、第2中継所まであと200mほどの地点で転倒しました。転倒後、同選手は四つんばいになってアスファルトの上を5分以上かけて進み、膝から血を流しながら3区の走者にタスキをつなぎました。レース後、同選手は右脛骨(けいこつ)の骨折で全治3~4カ月と診断されたそうです。

このアクシデントでは、選手を止めるべきだったか、そのままタスキをつなぐべきだったかといったことがメディアで議論されていましたが、ここで私が問題視したいのは、3つのポイントです。

1つは、今回のアクシデントを「美談」として扱ってはいけないということです。

この選手がとった行動は、選手の立場から見れば、何も特別なことではありません。もし私が現役時代に同じような状況になれば、同じ行動をとっていたでしょう。私だけでなく、駅伝に出場するランナーなら、おそらく大多数の選手が同じ行動をとると思います。マラソンであれば自分の脚を守るために棄権するかもしれませんが、駅伝はチーム戦ですから、メンバーの一員としての責任感から、無理をしてでも次の走者にタスキをつなごうというのは当然の気持ちです。その行為の良し悪しは、第3者が判断すべきものではありません。

ただし、それをメディアが美談のように取り上げれば、実業団や大学生の駅伝だけでなく、子どもたちや、彼ら彼女らを教える指導者にも、「ケガをしようが何があろうが、タスキをつなぐことが一番大事である」という誤った価値観を植え付けることになりかねません。今回のテレビ中継では、四つんばいになって進む選手の姿を映しながら、興奮気味に選手を励ます実況があったと聞きます。

とかく日本人は駅伝好きが多く、走者がタスキをつなぐ姿に感動し、「チームの絆」を感じさせるドラマチックなエピソードを好みます。それ自体は何ら問題ないのですが、今回のようなケースをメディアが美談に仕立てて大きく報道してしまうと、「その行動が正しい」「そう考えるのが常識だ」という風潮を世の中に広めてしまいます。選手だけでなく、指導者がそうした風潮に流されれば、今後、別の選手が同じようなアクシデントに見舞われたとき、選手生命が奪われるようなことにつながりかねません。

本来、国内外で活躍するような選手を育てるのであれば、痛みが発生したり、ケガをした瞬間に、その場で競技から離脱させなければいけません。もちろん、健康や運動能力向上のために走るような子どもたちでも同じです。子どもであればなおさら、本人に任せず、指導者が即座に判断して止める責任があります。今回の話を美談にすれば、「はってでもタスキを渡す」という行為をまねする子どもたちや指導者が現れるかもしれない、という影響の重大さを、情報を流す側はしっかり認識してほしいと思います。

テレビ中継の画面で飯田選手の異変に気づいた所属チームの広瀬永和監督は、早い段階で大会運営側に「棄権」を申し出たそうです。その広瀬監督が大会後に「これは美談ではない」と公の場でしっかりおっしゃっていたことは救いでした。

■「なるほど」と思った宗茂さんの提案

2つ目のポイントは、一番の問題である「チーム責任者からの意思伝達のありかたの問題」です。

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