しょっぱさ控えめ 「低ナトリウム塩」使って適塩生活
魅惑のソルトワールド(23)
夏から秋に季節が移ると、「塩が味方から敵に変わる」ようだ。夏には熱中症対策として、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの店頭に、塩あめや塩を使ったドリンクがずらりと並ぶ。しかし、秋から冬にかけてメディアなどで、「塩を控えましょう」と減塩のアナウンスを目にする機会も増える。そこでお薦めしたいのが、今回紹介する「低ナトリウム塩」だ。
この時期に減塩が注目されるのは、寒さが高血圧に影響を与えるためだ。寒くなると体温を逃がさないように血管が収縮し、血圧が上がりやすくなる。そのため、まずは「高血圧の大敵である塩の摂取量を控えよう」という発想があるとみられる。ここで、その医学的根拠を詳しく論じたりはしないが、「塩=高血圧」で、健康に良くない、というイメージが残っているのは確かだろう。
本来、季節に関わらず、発汗量や生活状況に合わせて塩の摂取量をコントロールすることは非常に重要だ。食品業界でも数多くの減塩食品が発売されている。減塩しょうゆや減塩味噌、減塩ソース、減塩ケチャップなどの減塩調味料に始まり、塩サバや塩ザケ、梅干しなどの加工食品にも減塩タイプが登場している。今やスーパーマーケットの食品売り場には「減塩」があふれている。
そしてそれは、塩そのものにおいても例外ではない。そう、「低ナトリウム塩」である。
低ナトリウム塩とは「塩化ナトリウムの含有量の低い塩」を指し、塩化ナトリウム以外の成分が全体の25%以上含まれる場合にだけ、低ナトリウム塩と表記することができる。
専売制度の下で生まれたナトリウム純度の高い「食塩」では、100グラムのうち99グラム以上が塩化ナトリウムだ。そもそも塩を構成する主成分はナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムの4種類で、そのほか微量ミネラルが多種類含まれる場合もある。製法によって塩の中に含まれるミネラルのバランスは大きく異なるが、日本で多く採用されている海水を釜で煮詰めて濃縮・結晶させる製法だと、塩化ナトリウム量は100グラム中92~96グラム程度のものが多い。
低ナトリウム塩は塩化ナトリウムを75グラム未満にするために、様々な手法が採用されている。大きく分けると2タイプあり、最も一般的なのが、なんらかの添加物をブレンドして塩化ナトリウムの構成比を下げる方法だ。代表的なものとしては「塩化カリウム」や「炭酸マグネシウム」が挙げられる、そのほか「硫酸マグネシウム」「粗製海水塩化マグネシウム」なども使用される。
特に塩化カリウムは苦味と酸味があるものの、塩味も感じるため、多く使用されがちだ。炭酸マグネシウムはベーキングパウダーにも含まれる成分で、塩の固結を防ぐ役割も果たす。硫酸マグネシウムは「にがり」に一部含まれる成分で、体を温める温浴効果があることから入浴剤の主成分としてよく使用されている。粗製海水塩化マグネシウムはいわゆる「にがり」で、豆腐を固めるのに使用される。海水から塩を採取した後に残る硫酸マグネシウムや塩化カリウムを主体としている。
これらの低ナトリウム塩に共通するのは、どうしても味わいが極端になりやすいということだ。ミネラルには、ナトリウム=しょっぱさ、カリウム=酸味、マグネシウム=苦味、カルシウム=無味というように、それぞれに味がある。このため、ナトリウムの構成比が少なくなればしょっぱさを感じにくくなるし、その分構成比の多くなった他の成分の味を強く感じて、本来の塩とはかけ離れた味わいになりやすい。
最近では、塩化カリウムなどに由来する独特な味わいを緩和しようと「グルコン酸」を添加した塩も発売されている。グルコン酸は主にpH(ペーハー)値の調整を目的として使用される食品添加物だが、ほかの酸味を感じさせる成分に比べて丸みのある柔らかな酸味と言われている。無機物である塩に有機物を添加している時点で、もう純粋な塩とは言えないような気もするが、それはそれで新たなジャンルを確立するのかもしれない。
各メーカーとも、低ナトリウム塩をおいしくしようと悪戦苦闘しているが、今の段階では通常の塩に比べてしょっぱさが少なく、酸味と苦味が強いものがほとんどだ。この特徴的な味わいの塩をおいしく使うための方法を考えてみた。
まず、しょっぱさが少ないので調理工程で味付けに使うとしょっぱさが効かず、どんどん使用量が増えてしまう。わざわざナトリウムの少ない塩を使っているのに、大量に使ってしまっては本末転倒だ。なので、調理工程で味付けに使うのはおすすめしない。それではどこに使うかというと、基本的には「つける・かける」という用途だ。
スープのように溶かしてしまうものはどうしようもないが、いため物や煮物の場合、ごくごく薄味か、もしくは無塩で調理をして、食べる時に塩をふりかけるのだ。そうすることで、舌に直接塩が当たるので、溶けている状態よりしょっぱさを感じやすくなる。
次に、相性の良い食材や料理に使用すると、少量でも食材の味わいを引きたててくれて、おいしく食べやすくなる。低ナトリウム塩に共通するのが「非常に弱いしょっぱさ、強い苦味と酸味」のため、お薦めしたい使い方がゴーヤーなど苦味のある野菜のグリルや、川魚などの内臓ごと食べる魚だ。肉と合わせるなら脂身の少ない豚肉が合う。
いずれも調理が済んでから低ナトリウム塩をふりかけて食べるようにする。逆に低ナトリウム塩にはあまり向かないのが、油分が多い食材や調理法だ。こうした食材や調理法では、塩にも適度なしょっぱさが求められるためだ。
このように、独特な味わいの低ナトリウム塩だが、使いようによってはとてもおいしく食べることができる。
ただ、腎臓に疾患を抱えている場合や、機能が低下している場合は十分に気を付けてほしい。塩化カリウムの摂りすぎは「高カリウム血症」を引き起こす要因となるため、摂取量に十分注意しなくてはならない。このため、どの商品にも「医師の指示のもとに使用するように」という注意書きがある。
塩は決して健康の敵ではない。大切なのは、自分が必要としている量を把握し、適切な量を摂取する「適塩」だ。外食が多く塩分コントロールが難しい人は自宅で「低ナトリウム塩」を使うのも手だ。適塩を実践するために、自分に適した塩を選んでみてはどうだろうか。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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