「恋愛感情はない」ロマンチックとは程遠いプロポーズ

美佐さんによれば、智宏さんは真面目で慎重すぎる。デートでは車で女性を送り迎えしなければならないと思い込んでおり、2人は同じ愛知県民にもかかわらず、結婚したらどちらの実家の近くに住むべきかに悩んでいる。そんな彼のどこか好きなのかといえば、美佐さんはもう全体的に好きなのだ。

「電話をしていて、彼が他の何かに気が向いているのが分かるときがあります。『今、ソワソワしているでしょ』と私が指摘すると、彼は図星だと言って喜ぶんです。その様子がすごくかわいくて、いとおしいなと思います」

外野からはよく分からないかわいさである。しかし、そういう細やかな気持ちのやりとりは、少なくともちゃんと交際をしてから楽しむようにしたらどうなのだろうか。

「そうですよね。でも、彼はちゃんと告白してくれたとしても、後から『やっぱり違った』なんて言いそう……。気難しいところもある人ですから」

智弘さんには美佐さんのほうが押し気味だが、美佐さんに言い寄っている男性も少なくない。そのうちの1人が、以前からの友人である伸也さん(仮名、33歳)だ。

伸也さんとは「勉強仲間」であり、スターバックスの机に陣取って一緒に資格試験の勉強をした時期もある。数か月に1度は顔を合わせる友達だ。このインタビューの2日前にも2人は会っていて、伸也さんは美佐さんに突然プロポーズをした。しかし、その内容はロマンチックとは程遠いものだった。

「恋愛的な好きではないけれど、何でも話し合って人生を共に歩んでいける人だと思った、と言うんです。褒められているのかけなされているのか分かりませんでした」

美佐さんのほうも伸也さんの前では「まったく女になれない」と感じている。ならば友達のままでいるべきだろう。

「好きだと言わなかったら、好きな男のほうに行ってまうやろ」

今年の夏に出現したのが、2歳年上の正孝さん(仮名)。昨年末に婚活アプリで知り合い、関西にある出身大学が同じであることで意気投合した。

実家も関西にある正孝さんは広告代理店の名古屋営業所で働いており、忙しい日々を送っている。この夏、何を思ったのか久しぶりにLINEでメッセージを送ってきた。

「飲みに行こうや」

美佐さんは決断力がないことを自覚している。智宏さんのことが好きなのは確かだが、他の人ではダメだとも思えない。正孝さんには「好きな人はいる」ことを伝えて自分への言い訳を作りつつ、誘われるままに飲みに行った。

「意外としっかりした人なんだ、という印象を受けました。一緒にいても楽しいし、彼の前で女になれないというわけでもありません。でも、車で自宅近くまで送ってくれて、最後にキスをされそうになったんです。それさえなかったら好印象だったのに……」

正孝さんはまったく悪びれない。美佐さんは智宏さんと付き合っているとはいえず、自分には恋人がいない。真剣に積極的にアプローチして何が悪いのか。

「久しぶりに会っていきなり強引に迫られても困る、と抗議したのですが『いま好きだと言わなかったら好きな男のほうに行ってまうやろ』と返されました。関西人に口ではかないません」

美佐さんの本当の気持ちは「智宏さんと結婚したい」に尽きる。一番信頼できて、一番一緒にいたいと思える人だから。でも、モテ期は長く続かないことも分かっている。智宏さんとの関係は自分が30歳のうちに結論を出すつもりだ。智宏さんがいつまでも煮え切らないのであれば「それまでの縁」と割り切るしかない。

大学職員の仕事にはどのような見通しを持っているだろうか。

「この仕事でまだやってみたいことはありますが、固執はしていません。20代の頃は他の仕事をいろいろしていましたが、それぞれ楽しいと思えました。結婚して、今の仕事を辞めざるを得ないのであれば仕方ありません。東京や大阪に行ってみるのもいいな、と思っています。お金にはならないことは分かっているけれど、手仕事が好きなので何かを作ることを仕事にできたら楽しそうですね」

30歳。社会人としても成熟し、なおかつ若さにあふれている。男女ともに恋愛市場でも転職市場でも引き合いが増える時期だ。実際、彼らの前途には無数の選択肢がある。しかし、数年後には何かを選び、他のものは捨て、引き返すことのできない道を進まねばならなくなる。そのとき初めて本当の大人になるのだ。アラサーは、現代人にとって「若者」でいられる最後の時期なのかもしれない。

大宮冬洋
フリーライター。1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに就職。1年後に退職、編集プロダクションを経て2002年よりフリーに。著書に『30代未婚男』(共著/NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる ~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)など。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している。公式Webサイト https://omiyatoyo.com