五輪の医師、無償でいいの? 組織委判断に医療界当惑東京都医師会・猪口副会長に聞く

――医師・看護師を集める手法についてはどう考えますか。組織委は個人の希望者を募るのではなく、大規模な病院ごとに折衝して、まとめて派遣してもらう形をとりました。

「スムーズな診療という意味では(互いによく知っているメンバーの方がやりやすいので)よく理解できます。ただ病院が意気に感じて引き受けて、希望者だけで埋まらない場合、『足りないんだよなあ、行ってくれないかなあ』と頼み込んだり、出張扱いにして給料を払ったりすれば、医師会として問題にせざるを得ません。我々も組織委から依頼されて、(会員のなかから)46人の医師、92人の看護師を派遣します。募集の際には『やりたい人はどうぞ』としか言っていないので、そういうことはないと思います」

国体の医師・看護師は原則として有償だ(写真は「福井しあわせ元気国体」の閉会式、18年10月)=共同

――無償であることに、当事者である医師・看護師は不満を持っているのですか。

「何人かにインタビューしてみました。すると、みな『喜んでいくんだから、いいじゃないですか』と言うのです。報酬についても『大会のバッジをもらえればそれで十分です』と。『邪魔しないでほしい』と言う人までいます。まるで五輪という魔法にかかっているようです。医師会として、(無償は)いい話とはいえませんが、『やりたい』という人に『やるな』と言うわけにもいきません」

――これまでも草の根のイベントでは、無償で診療することがあったのではないですか。

「全体は把握できてきませんが、経験値からいえばその通りです。たとえば小中学校の運動会に、医師が保護者として参加することはよくあると思います。もともと医師・看護師は奉仕の精神を持っていて、人道的だったり、世の中のためになることだったりするなら、すすんでお手伝いしたいと思っているはずです」

――では、どんなイベントが有償になるのですか。

「大規模イベントはほとんどの場合、興行的です。つまり市場経済のなかで、利益を生むことを前提としています。マラソン大会を例にとれば、一般の参加ランナーからお金をとる一方、招待ランナーにはお金を払っていますよね。なかには、赤字を税金で補てんしている大会もありますが、それは地域おこしなど目に見えない利益を得ようとしているわけで、その地域が大会をやめればすむ話です。我々の専門能力をただで使いながら継続性があるというのは、ちょっとおかしな話だと思います」

「イベントを規模ごとにピラミッド構造にたとえると、中間から下が無償で、それより上の大規模イベントが有償です。頂点にくるはずの五輪は、世の中のためになりたいという医療の精神性とぴたっとはまってしまった感じです」

五輪の特殊性、大会後に検証必要

――五輪・パラは特別な存在といえますか。

「興行的に黒字を出すことがあり得ない状況で、税金もかなり持ち出しになります。近年は、開催する都市がなくなっているとさえいわれます。かといって、やめるわけにはいかず、世界のどこかが引き受けなくてはなりません。そんなイベントはほかにないと思います」