「発散ノート」と「改善ノート」で出口探す
一方で、「キャスターとして、いかに技能を磨いていくか」という課題は、私に突きつけられたままでした。「こうすべき」と指摘され、頭の中でイメージできても、いざ生放送でゲストと向き合うとうまくできないんですね。進歩しない自分に対する焦りやいら立ちから、「どうしたら理想に近づけるか分からない。誰か教えてよ!」と叫びたくなることが何度もありました。
ただじっと怒られているだけでは答えはつかめないんですよね。そこで私は一歩踏み出し、自分で答えを見つけにいくことにしたのです。壁にぶつかったら、自分の足で歩いて、答えを探す。これが壁に当たったりつまずいたりしたときに繰り返し思い出す、私の信条なのだと思います。
――答えが分からなければ、自分で情報を取りに行く。まさに「記者魂」ですね。一歩を踏み出した先とはどこだったのでしょうか?
とにかく、その時の自分に足りないと感じたものを学びに行こうと思いました。まず向かった先は、話のプロを養成する学校です。「日テレ学院」なら社員割引で通えるなと調べて……、あ、すみません、関西人なので出費にはうるさいです(笑)。それで受講することにしました。
――それは、一般の人に交じって受講していたということですか? キャスターが隣にいると皆さんに驚かれませんでしたか?
そうですね(笑)。普通に、アナウンサー志望の大学生たちに交ざって授業を受けていたので、身元を明かすと驚かれたこともありましたね。
ここでは演劇や通信販売の口上といったさまざまなアプローチから「しゃべり」の基礎を習いました。さらに講師の中から自分に合う先生を見つけて、個人レッスンをつけてもらいました。決して安くはない投資でしたが、やってよかったですね。なにより、「私、着実に成長できている!」という実感が、それまであった不安やプレッシャーを落ち着けてくれました。会議室でどん詰まりになったままでは吸収できなかった学びとたくさん出合えました。
それ以降、私はどんなに行き詰まったときでも、「解決法はきっとどこかで見つけられる」と思えるようになったのです。さらにこの時、仕事ができない悔しさをバネにして身に付いた習慣がもう一つあります。それは、「ノートをつけること」。「発散ノート」と「改善ノート」という2種類のノートを使って、自分の感情を紙の上で発散し、行動の改善につながるヒントをまとめていく習慣ですね。

キャリアを積んでも「できない自分」に素直に向き合う
――「できない自分」に真正面から向き合わざるを得ないときの対処法を、小西さんは自分の力で発見し、身に付けていったのですね。
できない自分と向き合うのは嫌な作業ですよね。私も嫌です(笑)。誰でも、できれば避けて通りたいものだと思います。
それも新人ならともかく、ある程度キャリアを積んでから仕事の壁にぶち当たると、プライドも邪魔して、素直に自分のダメな部分を受け入れられなくなっていることもあると思います。
けれど、要は心の持ち方次第なのかな、と思うのです。いくつになっても、「どうしたらもっとうまくいったのか」と向き合い続ける自分でありたいと思っています。
女性のキャリア人生はこれからどんどん長くなるといわれています。だからこそ、私はいつまでも成長できる自分でありたいなと思うんです。どんな経験でも自分をよりよく成長させる材料だと思えば、前向きな一歩が踏み出せるはずですから。
今、思えば、この「暗黒時代」を経験してよかったと思っています。人はつらい経験をするたびに、他人の心に敏感になれます。そして逃げずに自分の力で踏ん張った分だけ、体力も筋力もつくのだと信じています。
でも、大事なのは、たった一人で頑張らないこと。
まずは自分の体と心の声に耳を傾けて、周りの人をたくさん頼って、「解決法はどこかできっと見つかる」と信じて歩き出してみる。思わぬ行動が、心を落ち着かせ、視界を広げるきっかけになることはたくさんある。経験者として、おすすめします。

(ライター 宮本恵理子、写真 稲垣純也)
[nikkei WOMAN Online 2018年10月9日付記事を再構成]