日経Gooday

日本では、山田さんたちが同様の研究を行っている[注2]。糖尿病患者24人を12人ずつに分け、一方にはカロリー制限食、もう一方にはロカボを6カ月間続けてもらった。カロリー制限食では、血糖値や中性脂肪はほとんど変化が見られない。それに対してロカボのグループは血糖値も中性脂肪も明らかに改善したという。

たんぱく質をしっかりとるので筋肉が減らない

カロリーを気にせず糖質だけを減らす結果、自然とたんぱく質や脂質の摂取量が増えるのもロカボの特徴だ。

最近、筋力の衰えから寝たきりにつながるロコモティブシンドロームも注目を集めているが、ロカボにはこれを予防する可能性もある。体重が多い人はロカボによってやせたが、もともとやせていた人は逆に体重が増えた[注3]。これは「筋肉が増えたため。たんぱく質をしっかりとるロカボは筋トレをしなくても筋肉を増やすので、ロコモティブシンドロームの予防も期待できます」と山田さんは話す。

スポーツの世界では、カーボローディングという言葉がある。試合の前に糖質を大量にとることで、筋肉のエネルギーとなるグリコーゲンをたくわえようという考え方だ。

しかし最近の研究では、糖質を控えても体内のグリコーゲン量に大きな変化は見られないことが分かっているという[注4]。むしろ、筋力に関してはロカボをした方が高くなる[注5]。これはたんぱく質の摂取量が多くなることで筋肉が増えたため、と考えられている。アスリートにとっても、ロカボは有効な食事法なのだ。

血糖値の急上昇は“肥満ホルモン”とも呼ばれるインスリンの分泌を増やして肥満や糖尿病のリスクを高くするが、血糖値を上げる栄養素は糖質しかない。糖質の量が同じ場合、たんぱく質や脂質が多く、カロリーが高いほど食後の血糖値が上がりにくい。

実際、白米を単独で食べるよりも、卵や豆腐(たんぱく質)を一緒にとった方が血糖値が上がりにくく、マヨネーズ(脂質)と野菜(食物繊維)を一緒にとると、さらに血糖値の上昇が抑えられた[注6]

現代人が注意すべきはカロリーよりも糖質のとり過ぎなのだ。むやみなカロリー制限は、骨密度を下げ、骨粗しょう症を招く危険もある[注7]

油もお酒もしっかり楽しめる

油のとり過ぎが良くない、という考え方も時代遅れになりつつあると山田さんは話す。

魚の油に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は動脈硬化を改善して死亡率を下げるとの報告があるし、オリーブオイルは心臓病や脳卒中のリスクを下げると考えられている。これら“体にいい油”だけではない。日本人の場合、“体に悪い”とされる動物性の油(飽和脂肪酸)をたくさんとる人ほど脳卒中が少ないことが確認された[注8]。これらの研究を踏まえ、「はっきり体に悪い油は過酸化脂質とトランス脂肪酸くらい。これ以外の油はどんどんとるべき。少なくとも控えてはいけない」と山田さんは明言する。

実際、米国の食事摂取基準では2015年から油とコレステロールの摂取上限量が外された[注9]。日本の食事摂取基準はそこまで踏み込んでいないが、やはり2015年からコレステロールの制限はなくなっている。

ロカボはアルコールにも寛容だ。

「蒸留酒やワインはほとんど糖質を含まないので、ロカボでは(糖質量という意味では)飲み放題です(笑)。ビールは中瓶1本、日本酒は2合に約16グラムの糖質を含みます。最初に中ジョッキを1杯飲んで、あとは焼酎やハイボールに切り替えればいいのです」(山田さん)

このところロカボが広く知られるようになり、多くの食品メーカーが低糖質の食品を開発している。糖質を40グラム以下に抑えたコースを出している飲食店も増えてきた。どんどんラクにロカボが実践できる社会になってきている。

「ロカボはおなかいっぱい食べられてお酒やスイーツも楽しめる。つらいカロリー制限など必要ありません。おいしく楽しく食べて健康に。それがこれからの食事です」(山田さん)

[注2]Intern Med. 2014 ;53(1):13-9

[注3]Keio j Med. 2017 ;66(3):33-43

[注4]Metabolism. 2016 ;65(3):100-10

[注5]Metabolism. 2018 ;81:25-34

[注6]Br J Nutr. 2014 ;111(9):1632-40

[注7]J Bone Miner Res. 2016 ;31(1):40-51

[注8]Eur Heart J. 2013 ;34(16):1225-32

[注9]JAMA. 2015 ;313(24):2421-2

(文 伊藤和弘=ライター、撮影 稲垣純也、図版 増田真一)

山田 悟さん
 食・楽・健康協会代表理事、北里大学北里研究所病院糖尿病センター長。1970年東京都生まれ。日本糖尿病学会糖尿病専門医。日々、多くの患者と向き合いながら、食べる喜びが損なわれる糖尿病治療においていかにQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げていけるかを研究する。2013年に、一般社団法人「食・楽・健康協会」を立ち上げる。『糖質制限の真実』(幻冬舎)ほか著書多数。

[日経Gooday2018年9月7日付記事を再構成]

「日経Gooday 30+」の記事一覧はこちら

医療・健康に関する確かな情報をお届けする有料会員制WEBマガジン!

『日経Gooday』(日本経済新聞社、日経BP社)は、医療・健康に関する確かな情報を「WEBマガジン」でお届けするほか、電話1本で体の不安にお答えする「電話相談24」や信頼できる名医・専門家をご紹介するサービス「ベストドクターズ(R)」も提供。無料でお読みいただける記事やコラムもたくさんご用意しております!ぜひ、お気軽にサイトにお越しください。