トレンチ、モッズ… 女性が着こなすメンズアウター
宮田理江のファッション戦略論
この秋冬は、トレンチコートやチェスターコートなど、メンズから派生したアウターが気になります。シャープなシルエットが女性らしさを程良く抑えて、りりしいたたずまいを演出してくれそう。各アイテムの由来と着こなしを、ファッション・ジャーナリストの宮田理江さんが紹介します。
好んでメンズ服を買う女性が珍しくなくなった。シャープなシルエットや、甘過ぎないムードが魅力だ。秋から先はトレンチコート、チェスターコート、フライトジャケット、ライダースジャケットといった、メンズから派生したアウターを取り入れれば、りりしい着映えに仕上がる。ヴィンテージミリタリーをベースにした大御所的ブランド「Nigel Cabourn(ナイジェル・ケーボン)」のウィメンズブランドを案内役に、各アイテムの由来と着こなしをおさらいしていこう。
トレンチコートはミックスコーデで女性らしさを
トレンチコートの歴史は第一次世界大戦に遡る。英国の歩兵が着た軍用の防水コートから広まった。「trench」という言葉は、彼らが敵の銃弾を避けるために地面を掘って作った、身を潜める隠れ家スペース(=塹壕、ざんごう)を指す。だが、起源はもっと古く、英国紳士の野外アウターとして知られていた。だから、ブリティッシュな紳士服ムードとミリタリーの武骨感を併せ持つのがトレンチの持ち味となったわけだ。
こうしたヒストリーに根差したトレンチ特有のりりしさを生かすのが、着こなしのポイントになる。シャツとパンツでマニッシュに固めてもさまになるが、どこかにフェミニンやカジュアルの要素を組み込むと、性別にとらわれない「ジェンダーミックス」や、こなれた雰囲気の「テイストミックス」に仕上がる。ボーダー柄トップスはのどかな風情で、トレンチルックの硬さを和らげてくれる。スカートやワンピースなどの女性らしいアイテムと引き合わせるのも、上手なミックスコーデになる。
チェスターコートの端正なたたずまい生かしお仕事ルックに
日本でも定着してきたチェスターコートは正しい名前ではない。正式には「Chesterfield coat(チェスターフィールド・コート)」と呼ぶ。19世紀英国のファッションリーダーだった貴族で、第6代チェスターフィールド伯爵のジョージ・スタンホープ卿に由来するとされる。
見た目は背広の着丈をぐっと縦長に引き伸ばしたようで、細長いシルエットを描く。英国貴族が好んで着ただけあって、静かな品格を宿す。適度にシェイプ(絞り)が利いていて、かさばって見えにくいから、着膨れが心配な秋冬に重宝する。端正なたたずまいを生かして、お仕事ルックに取り入れやすいのもうれしい。
モッズコート(タイプコート)のアウトドア感はスーツルックに
モッズコートもロンドン育ちだが、生まれは米国だ。もともと米軍の「M-51」というパーカが原型。米軍放出品が英国で安く販売されたのを、「モッズ(Mods)」と呼ばれた1960年代の若者たちが好んで着たのが広まるきっかけになったとされる。スクーターを移動に使った彼らに、軽くて暖かいパーカは支持された。現代ではミリタリー風味を残しながら、普段使いしやすくアレンジされた「モッズ風」のアウターが増えている。
ロンドンのモッズたちはスーツが汚れないよう、モッズコートを羽織った。スーツのきちんと感と、モッズコートのアウトドア感がうまい具合にクロスオーバーするから、堅苦しくないスーツルックに整えられる。程よいメンズテイストも加わるので、スカートルックにも好相性。軍装の名残りであるエポレット(肩飾り)やビッグポケットがタフなイメージを呼び込む。細身のボトムスを組み込んで、腰から下をスレンダーに見せるスタイリングも試せる。
フライトジャケットはボーイッシュにまとめる
フライトジャケットも、もともとは軍用だ。米軍の軍用機パイロットたちが着た、ブルゾン形のアウターが原型。防寒性の高さや、コンパクトなシルエットが魅力になっている。実は米軍のフライトジャケットにはたくさんのバリエーションがあり、「ボマー(ボンバー)ジャケット」は「爆撃機パイロット用」という意味だ。日本では代名詞的に使われる「MA-1」も1モデルにすぎない。リブ編みの襟と袖先は大半のタイプに共通している。
短めの着丈は狭い軍用機内で動きやすく仕立てられていて、日本人の体形になじむ。コンパクトな着丈と朗らかな量感を生かすのが、うまく着こなすコツだ。あえてフェミニンなワンピースやスカートにクロスオーバーさせてみたい。逆に、ボーイッシュにまとめると、アクティブな着映えに整う。
ライダースジャケットは柔らかい素材のアイテムで素材ミックス
日本では「ライダース(=乗り手)ジャケット」と呼ばれることの多いモーターサイクルジャケットは本来、オートバイ乗り向けのレザーアウターだ。「バイカージャケット」ともいう。男らしさを象徴するようなアイテムだが、ウィメンズに持ち込まれて、ジェンダーミックスのキーピースになった。
ハードでタフなイメージがあるから、女性が着こなす場合は、残りのアイテムでライダースの持ち味を、フェミニン寄りに折り合いをつけたい。柔らかい素材のスカートやパンツ、リラックス感が漂うニットなど、ムードの対照的なアイテムがマッチする。マフラーやストールを上から重ねて、タフなレザーと異素材ミックスしたレイヤード小技も、ライダースの出番を広げてくれる。
ミリタリーやワークウエアを大人女性に再解釈
英国出身のナイジェル・ケーボン氏は世界屈指のヴィンテージコレクターだ。とりわけ、ミリタリーやワークウエアに愛着が深い。所蔵する膨大なコレクションからも着想を得て提案する、ヴィンテージテイストを宿したアイテムはこだわり感が高い。もともとメンズ界の伝説的な存在だったが、ウィメンズも手掛けるようになって、さらにファンを増やしている。
それぞれのアウターが持つ由来や雰囲気を理解してまとうと、着こなしにも深みが出る。アウターは最も目立つウエアだけに、そのイメージを弱めるようなバランス感で、残りのピースを選びたい。英国風やミリタリーなど、本来のテイストを生かしながら、アウターのムードをずらす感覚でコーディネートを組み立てれば、全体がこなれて映るはずだ。
(画像協力 ナイジェル・ケーボン)
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートからトレンド情報、スタイリング指南などを発信。バイヤー、プレスなど業界経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした解説が好評。自らのテレビ通版ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。 著書に「おしゃれの近道」「もっとおしゃれの近道」(ともに、学研パブリッシング)がある。
[nikkei WOMAN Online 2018年10月27日付記事を再構成]
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