週末レシピ 塩おにぎりのキホン、飯は熱いうちに握れ
どれだけ食の欧米化や多様化が進んだとはいえ、やはり日本人にとってコメは特別な存在です。どんなおかずも受け入れてくれる懐の深いコメは、日本人の食卓には欠かせません。そんなコメが最高においしい時期、「新米」のシーズンがやってきました。
収穫時期は限られているのに年間を通じて流通しているので、なんとなくコメは保存食のようなイメージがあるかもしれませんが、基本的には野菜と同じく生鮮食品です。コメの種類や用途によっては古米になったほうがよりおいしい場合も稀にありますが、基本的には採れたて・精米したてが最もおいしいのです。
コメは、沖縄など一部の温暖な地域では6月などの早い時期に収穫されることもありますが、全国的なコメの収穫シーズンは8~10月がピーク。まさに今が、「新米」シーズン真っ盛り。コメ好きにとってはたまらない時期なのです。
一口に「炊飯」と言っても、品種や生産方法、収穫時期や精米時期、炊飯器によっても最適な炊き方というのは異なってきます。それを追求し始めるとキリがないので、今回は、私が複数のお米マイスターさんや料理人さんから伺った中で、最も簡単でおいしいと感じた炊き方をご紹介します。
<材料:ご飯3合分>
コメ 450グラム / 冷水 560ミリリットル
(1)コメを計量する。計量カップでも大丈夫ですが、できれば計りを使用するのがベスト
(2)ボウルに水を張りその中にコメを入れ、5秒程度さっと洗ってすぐに水を捨てる。これを3回繰り返す
(3)ザルにコメをあげてしっかり水気を切る
(4)炊飯器に(3)のコメを入れ、冷水を注ぎ、軽くかき混ぜたら、炊飯器のスイッチオン
(5)炊き上がったら炊飯器の蓋をあけて、しゃもじで十文字に切れ目を入れる。4つに分かれたご飯を、粒を潰さないように気を付けながら底から裏返してほぐす
重要なポイントとしては、まず、コメからうま味を引き出しやすくするために冷水(冷蔵庫で保冷した水)を使うこと。次に、コメは研がずに洗うということです。精米技術の発達した昨今、ゴシゴシとコメを押し付けるように研ぐことはコメ割れのリスクが上がるだけで、おいしさにはつながりません。
水の濁りはうま味でもあるので、透明になるまで洗う必要もありません。優しく洗ってあげるというのが正解です。また、できれば炊飯に使う水は軟水である日本のミネラルウオーターを使用すると、より一層おいしく炊き上がります。海外のミネラルウオーターは硬水なので炊飯には向きません。
おいしいご飯が炊けたら、食卓はもちろん、様々なシーンで食べたくなりますよね。そこで次は、おいしいご飯の炊き方に続き、おいしい塩おにぎりの握り方をご紹介します。
<材料:塩おにぎり3個分>
ご飯 茶わんに軽く3杯分 / お好みの塩 適宜
(1)炊飯器から茶わん1杯分のご飯を取り出し、まな板の上に軽くほぐしながら広げる
(2)ボウルに水を張り、手を水で濡らし、手を振って適度に水分を飛ばす
(3)小皿に塩を入れておく。右手の人さし指、中指、薬指の3本をそろえて、塩を第一関節と二関節の中間程度までつける。両手を擦り合わせて、手のひらにまんべんなく塩を行き渡らせる
(4)両手で三角形を作り、(1)のご飯を両脇からその型にはめるように寄せて、ふわっと三角形に成型する
(5)(4)のご飯を持ち上げて、3回転させて、三角形に成型する
(6)少し冷ましてからアルミホイルでくるむ
塩おにぎりを握る際のポイントは4つ。最大のポイントは、決して強く握らないことです。おにぎりのおいしさの1つに、「ふんわりと空気を含んでいる」というものがあります。これはすしのシャリと同じ考えで、口に入れるまでは形が崩れず、口に入れたらほろほろとほどけていくというのが、コメのおいしさを存分に味わえるおにぎりの条件なのです。
形をきれいな三角形にしようと思うあまり、つい力を入れてぎゅうぎゅうと握ってしまったり、手の中で何回も転がしてしまったり……。そうするとせっかくふっくらと炊きあがったごはんの粒が潰れて不必要な粘り気が出て食感が悪くなってしまいます。ちょっと形がいびつかな?というくらいがちょうどよいですし、逆にそれが手作りのかわいらしさでもあるので、あまり握りすぎないように気をつけましょう。
次に注意したいのが、おにぎりの大きさ。あまり大きすぎると、形を保つために力強く握ることになるので、ふんわり握りやすく、片手で持てて口にきっちり収まるサイズが理想的です。コンビニエンスストアのおにぎりは1つ約100~120グラムが一般的で、これくらいの大きさを目指すとよいでしょう。おにぎり1つ当たり、女性用の小ぶりのごはん茶わんに軽く一杯というところです。
ポイントの3つ目は、ご飯は温かいうちに握るということ。手が熱いのが嫌だからと冷ましてから握ろうとすると、べたついてうまくまとまってくれない上に、ご飯が乾燥してしまい、ふんわりとした食感が失われてしまいます。ご飯をまな板の上に移してほぐす時にある程度冷めますし、手水にも冷水を使うことでごはんの熱さも感じにくくなりますので、ぜひ冷ましすぎず熱いうちに握るようにしましょう。
最後のポイントは、持ち運ぶ際には保存用ラップではなく、アルミホイルでくるむことです。保存用ラップは機密性・保温性が高いために熱がこもって水滴が発生し、おにぎりがべちゃべちゃになりがちです。一方アルミホイルは、水分がこもらず適度に熱を逃がしてくれるので、水滴が発生しづらくおにぎりがべたつきにくいという特徴があります。持ち運ぶ際には、アルミホイルでやさしく包むのがお薦めです。
ご飯そのものがあまり好きではない人でも、塩おにぎりにするとおいしく食べられるなんてことはありませんか。これは、おにぎりを握る際に使用される塩によってつく適度な塩味が、コメの甘味やうま味を引き出すからと考えられます。シンプルにご飯と塩だけで握る場合は、「そのコメに合わせてどんな塩を使うか」ということも非常に重要になってきます。
とはいえ、おにぎりにおすすめの塩はズバリこれ!と銘柄を指定するのは非常に難しいのが現状です。なぜならば、昨今は各産地で品種改良が進み、非常に個性豊かな品種が生み出されており、コメそれぞれで味わいが全く異なるからです。そこで今回は、コメの味わいの傾向に合わせて、お薦めの塩をご紹介したいと思います。
また、おにぎり1つ当たりの塩の量も重要になります。基本的には前述のレシピのように、ご飯110グラム程度に対して、「指3本の第一関節から二関節の間」まで塩をつけて、それを全体にまぶします。しかしここで気を付けたいのが、食べるシーン。たとえば部活や遠足、運動会など汗をかくことがわかっている場合には、少し塩を多めにつけてあげると、汗で体内の塩分を失っている分、よりおいしく感じられます。
逆にオフィスなどで食べる場合や、塩辛いおかずなどが一緒にお弁当に入っている場合には、少し塩を控えめにしてあげると、トータルのバランスが良くなります。食べる人のシーンを想定して握ってあげる。これこそが、塩おにぎりをもっともおいしくするコツといえるかもしれません。
ちなみに最後におさらいを。みなさん、「新米」の定義はご存じでしょうか。実はちょっとややこしいのです。
まず、食糧管理法に基づいて制定されている「米穀年度」によると、「新米」とは11月1日~翌年の10月31日までとされ、翌年の11月1日以降は「古米」として扱われます。つまり1年間は「新米」という扱いなのです。その一方で、JAS法に基づく「玄米及び精米品質表示基準」によって、収穫した年の12月31日までに精米や包装が行われたコメに限って「新米」と表示することができると定められています。
つまり、今年11月1日に収穫したコメでも、12月31日までの間に精米や包装がされなかった場合は、「新米」と表記して販売することができなくなります。コメのプロ以外の人がコメを見て「新米か古米か」を判断するのは非常に難しいので、パッケージに「新米」シールが貼られているものを選ぶのが間違いないでしょう。
多くの産地が様々な品種を売り出している今日この頃。この新米シーズンに、ぜひその真価を楽しんでくださいね。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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