見る目が違う 人とは異なる世界が見える目の多様性
人の目は優秀だ。ものが自分に向かって飛んできても、ぶつからないように無意識に体を動かせるのも目のおかげだ。ただ、人間の目は動物の中で特別に優れているわけではない。例えば、鳥の仲間の多くは、もっと速く視覚情報を処理できる。「飛んでいる鳥は、木の枝にぶつかるのを一瞬で避けなければなりません」。こう話すのは、米パデュー大学の動物生態学者エステバン・フェルナンデス=ジュリシック氏だ。
「さらに鳥には、遅い動きまでしっかりと見えている可能性もあるのです」と鳥の高速画像処理能力について同氏は話す。
鳥の目は極めて優秀で、その優れた視力は話題に上る。よく知られているものは、タカの目の能力だ。タカは、ウサギなら5キロ離れた所からでも見つけられる。
さらに、スズメには紫外線が見えるという。人間には想像するのも難しい世界が見られるわけだ。
フェルナンデス=ジュリシック氏と米コーネル大学との共同研究で、生態学者ラスティー・リゴン氏は、人間には見えない紫外線を利用した鳥のコミュニケーション方法を発見した。例えば、フキナガシフウチョウには、長い飾り羽が2本あるが、「紫外線を当てると光る性質があります」と同氏は言う。
世界の見え方が人間と大きく違う動物はほかにもいる。
水中と陸上の両方で生活する両生類の中には、上下のまぶたに加えて第3のまぶたがあるものもいる。このまぶたは「瞬膜」と呼ばれ、水中では目を保護し、陸上では目の乾燥を防ぎ清潔に保つのに使われている。
「カエルは、暗闇の中でも色を見分けられる目を持つ唯一の脊椎動物と考えられています」と生物学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(ナショジオ協会が支援する研究者)、ジョナサン・コルビー氏は話す。光が弱くなるほど、動物は色がわからなくなっていくが、カエルは月明かりすらない暗い夜でも色を識別できるのだ。
また動物の視覚器官は、顔にある2つの目だけとは限らない。
今年、ヒトデの5本の腕の先端に目があることがわかった。学術誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載された論文によると、その目では、人間にとっては200ピクセルほどの画像のように見える、粗い像しか見えていないと考えられるが、大きな物を認識するには十分だ。
目は、それぞれの種が必要とするように進化してきた、と生物学者ダン=エリック・ニルソン氏は2016年のナショナル ジオグラフィックの取材で語っている。
「目は貧弱なものから完璧なものへと進化したわけではありません。まず少ない機能を完璧にこなすことからスタートし、その後、複雑に機能するように進化してきたと考えるべきでしょう」と、同氏は話している。
次ページでも、動物の目の多様さをクローズアップでお届けする。目の持ち主を考えてみよう。
(文 SARAH GIBBENS、DAVID LIITTSCHWAGER、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年10月10日付記事を再構成]
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