V9の原点は4年生の雑用 帝京大ラグビー監督の指導帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督(上)

――その方法の1つが、4年生が寮の掃除やユニホームのアイロンがけなどの雑用を担当することなのでしょうか。

4年生が雑用をする真意は1年生の「心の余裕」

「人間的な成長が大切だ」と説く

「よく雑用の話を聞かれるのですが、それは入り口に過ぎません。体育会では『神』のような存在の4年生が雑用をやる意味は何か。1年生に心の余裕を持たせることで、自分作りに集中してもらうことなのです」

「米国の心理学者、マズローの『欲求5段階説』でいうと、最初は生理的、次に安全というように低次元の欲求が満たされていく中で、最後に自己実現という高次の欲求が生まれます。最初の段階で欲求が満たされていないと上にはいけない。人間ってそういう動物なんです。ただでさえ、生活に大きな変化がある新入生に雑用で負荷をかけたら、そこから逃避したい欲求にかられます。旧態依然とした体育会組織は彼らの精神を脅かすものだと思ったのです」

――今の学生が弱くなっているのでしょうか。

「少子化のなかで、今の若い人は昭和世代に比べると大切に育てられています。最近は様々な事件もあり、親としては小さいころから安全にも気を配っている。とてもデリケートで、受け身で育っています。そんな教育の変化があるのに、いきなりトップダウンで指示されたらパニックしか起こさない」

「よく『アメとムチ』といいますね。企業も含め、報酬と罰則でコントロールする組織が世の中には多いですが、人は罰の方が印象に残りやすい。すると、他人にコントロールされるので指示待ち人間になり、人の顔を見て動くようになる。一方、自分で立てた目標を自分で達成すると納得感も生まれるし、その納得感が報酬になるはずです」

「企業からの講演依頼も最近増えていますが、多くは昭和とのギャップに悩んでいるようにみえます。指導しても反応が鈍く、『ぬかにくぎ』みたいな状態じゃないでしょうか。今の若い世代はガツガツこないから、少しずつ人間的な成長を高めていく必要があります。彼らをマネジメントしたいなら、ぐっと押さえつけるのではなく、ひき付けるためのマネジメントが大切です」

――1年生から4年生になっていく過程でどんな成長があるのでしょうか。

「同じ話をしても1年生と4年生では聞こうとする姿勢が全然違います。育ってきた環境にもよりますが、自分と向き合う土台作りには1~2年間ほどかかります」

「上級生になれば、周りの人を鼓舞してやる気を持たせるリーダーシップが求められます。しかし、1年生ではリーダーシップの前にオーナーシップ(自発性)を持たせ、自分をコントロールしてやる気になることがスタートです。いきなり献身ではなくて、まず自分を大切にさせる。一人ひとりの心の中にモチベーションを開く鍵がある。まず自分自身の振り返りをしてもらいます」

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