復活のホンダCR-V ホントに成功するのか?
またまた気になるホンダ流「昔の名前で出ています」作戦の第2弾がさく裂しました。2017年に6年ぶりの復活を遂げた10代目シビックに続き、2年ぶりに復活したビッグネームSUV(多目的スポーツ車)の5代目ホンダ「CR-V」です。
そもそもは1995年デビューの元祖シティー派SUVで、トヨタ「RAV4」同様、当時のRV(多目的レジャー車)ブームを引っぱった立役者。日本でアウトドアブームが下火になったことや、13年デビューの弟分「ヴェゼル」が3年連続で国内SUV販売ナンバーワンとなり、一応の役割を終えたということで16年に国内販売を中止しました。
ところが、ここへ来て世界的なSUVブームが到来。新型が大型化&プレミアム化して、ヴェゼルのステップアップ向けにもなりうると判断し、いよいよ5代目復活! となったのです。
ついにハイブリッド、3列シートがチョイス可能に!
とはいえ、ホントに売れるかどうかはまだ未知数で、初期受注数は約6400台と圧倒的とは言えない結果。先は読めませんが、最近のホンダは「クルマが良ければどこでも売れる」という信念もあってか、同一モデルをグローバル展開する小沢言うところの「ワンホンダ戦略」を掲げていて、シビックやCR-Vに続き、年内にはハイブリッドセダンの「インサイト」も復活させる予定。
なかでもCR-Vは、日本でこそ後半に伸び悩んだものの世界的には絶好調で、いまや北米や中国マーケットにおける大黒柱。世界での年間販売台数は75万台以上とドル箱化しており、アチラではシビック代わりにCR-Vを買う人もいるようです。
そこには同時に八郷隆弘社長の「グローバルで通用する商品、技術を育てていかないかぎり、本当の意味でホンダの技術力、ブランド価値が上がったとは言えない」の信念も見えかくれします。
実際、5代目になってボディーが大きくなってヴェゼルとの違いもハッキリとし、今までになかったハイブリッド仕様や、ミニバン代わりの3列シートモデルも投入しました。
小沢的にもなにも、今さら売れないセダンとハッチを? と思ったシビックより普通に好印象というわけで恒例のコージチェーックを!
デザインはやっぱり大陸向けかも?
期待の再投入CR-Vですが、いきなりデザインに多少の疑問を感じます。サイズは4WD車で全長×全幅×全高=4605×1855×1690mm(FFは1680mm)で、グローバルモデルであると同時に日本でも使いやすいところは見事ですが、正面から見てぽっちゃり気味の「おたふく系マスク」や、マッチョな左右フェンダーがややバタくさい。
現行シビックのように、ペキペキプレスラインが入った箱型ではなく、バランスの取れた肉感的フォルムでイヤミではないですが、米国や中国をねらった大陸的テイスト。うーん、本当に日本になじみますかねこのカタチ?
特にこのクラスはライバル、マツダ「CX-5」や「CX-8」が欧州的なカッコよさを、トヨタ「ハリアー」がマイルドヤンキー受けするセクシーさを持っていて、そこに張り合える個性があるかっていうと少々難しい気もします。
かたや使い勝手はさすがに世界のベストセラーSUV。各国のマーケット需要に応えているだけあって文句ありません。特にCR-Vの売りともいえるパッケージは、5代目でますます進化。
ボディーが大きくなったとはいえ、取り扱いしやすい全長4.6m台をキープしつつ、リアシートやトランクの広さが圧倒的。2列シート車はリア席を一番下げるとヒザ前にコブシが2~3個入りそうな広さを持つうえ、トランク容量はハイブリッド車が499L、ガソリン車が561L(5人乗車時)もありますし、日本人が好みそうな3列シート車もまた絶妙な出来。
箱型ミニバンにこそかないませんが、床下ガソリンタンクを専用設計することで、2~3列目のフロア形状を最適化。身長176cmの小沢が2列目に普通に座ったポジションで、3列目にも一応座れます。正直、座面が低くヒザを抱える体育座り気味にはなりますが、頭はギリギリぶつかりません。
同じく3列シートミニバンのマツダCX-8よりタイトめですが、あちらは全長4.9mですから。CR-Vのほうがより効率的です。
一方、内装のプレミアム感も順調に進化しています。本革シートやサンルーフが標準装備される「マスターピース」グレードはもちろん、インパネの木目調&本革調マテリアルもなかなかの質感。リアル素材を使っていないのが残念ではありますが。
名前を変えたくなる新鮮EV味のハイブリッド
さらなる注目は走りで、ホンダ開発陣がもっとも力を入れたところ。なかでもCR-V初投入のハイブリッドの出来が良く、独自の2モーター式システム「i-MMD」に高効率の2Lアトキンソンサイクルエンジンを組み合わせています。
この方式は、2つのモーターをほとんどのシーンで動力用、発電用と割り切って使う日産e-POWER方式に近いもの。高速の定常走行のみエンジンで直接タイヤを駆動しますが、街中や急加速はほとんどモーターのみで行います。駆動用モーターは184psと、145psのエンジンよりパワーが大きいくらいで、すっきりとした電気自動車的加速が売りなのです。
実際、アクセルを踏んだとたんの透明な加速感はさすが。その後のレスポンスも素早く、唯一、i-MMDという難しいネーミングが残念ですが、「ホンダe-POWER」とでも呼びたいぐらいのフレッシュなEV走行感覚が味わえます。
かたやこれまた初搭載のダウンサイジング1.5L直噴ターボエンジン+CVTの走りもなかなか。出足の滑らかさはハイブリッドに一歩譲りますが、低回転から力強く、何しろピークパワーが190ps、ピークトルクが240Nmと十分。
同時にハンドリングは一体感があって、非常によろしい。ダイレクトなフィールをもたらすデュアルピニオン可変ギアレシオの電動パワステや、ホンダ独自の「アジャイルハンドリングアシスト」(ハンドル操作に応じて4輪それぞれに軽いブレーキをかけてコーナリングを安定させるシステム)が付いているだけでなく、英国のカントリーロード、ドイツのアウトバーン、スペインの高地といろんなシーンを走り込んだようで、世界のベストセラーSUVだけに入念に作り込まれています。
一方、燃費性能ですが、今回高速を走らせられなかったので実感できませんでしたが、JC08モードで2Lハイブリッドが最良25.8km/L、1.5Lターボが15.8km/L(ともにFF)とほぼクラストップ。
特にハイブリッドのライバルSUVと比べると、サイズの小さいトヨタ「CH-R」にこそ負けますが、21.4km/Lの「ハリアー・ハイブリッド」を上回り、カタログ上はクラストップ。
ブレーキも1.5L車は電動ブレーキブースターを初採用。コントロール性が向上し、高速からでもしっかり利きます。
当然ながらホンダセンシングは標準装備
そのほか小沢も買った軽スーパーハイトワゴンの「N-BOX」にも付いている安全支援技術の「ホンダセンシング」は、当然標準装備。
レーンキープの「LKAS」は相変わらず利き弱めでしたが、前走車に追従して自動で加減速を行う「アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)」はレスポンス良く利きますし、現代基準の安全性能をきっちりと満たしています。
とはいえ、今後の自動運転やハイテク化で他をリードするような部分は特になく、きっちりとCR-Vの世界を守ったという印象。
ハリアー、CX-8、ボルボX C40にガチで勝てるか?
ってなわけで、もはや年販75万台以上の世界的ベストセラーSUVとしての本気っぷりがうかがえた5代目CR-V。新しく備えたハイブリッドの走りや燃費スペックはさすがだし、3列シートのパッケージ効率も世界トップレベル。
とはいえ、2018年7月初旬から受注を開始し、10月18日時点での国内受注6403台は決して多いとは言えません。なにしろ同じく3列シートのマツダ「CX-8」などは、事前受注を含め、発売1カ月で受注1万2000台でしたから。
内訳も5割強がハイブリッドで、残り4割強が1.5リッターターボなのはいいとして、どちらも競争力があるわりに伸びてない。ぶっちゃけ原因は価格戦略にあると思われます。
一番手軽な1.5Lターボの5人乗りFFが323万円で、7人乗りFFが342万円から。ハイブリッドの一番安いものでも378万円からで、全体に旧型よりかなり上がっており、プレミアムSUVの領域に入っています。
かたやマツダCX-8は、先日ガソリンエンジンモデルが追加されてほぼ290万円から。かなり戦略的な値付けをしているわけです。
さらにいうと、よりプレミアムなイメージを持つボルボのコンパクトSUV「XC40」は389万円から、フォルクスワーゲン「ティグアン」も363万円から買えます。
CR-Vが弟分のヴェゼルとかぶらないミディアムSUVレンジに上がったとして、それに見合ったプレミアムオーラを簡単にまとえるかは別の話なのです。
別の名前を付けてもよかったのかも?
300万円オーバーの高いSUVレンジに入ると言うことは、プレミアムなドイツ系輸入SUVとガチで戦う、あるいは最近デザイン的に評判のいいマツダSUV、あるいは根強く若者に人気のハリアーと戦うことを意味します。
プレミアムは、実用性や燃費だけをうんぬんするマーケットではないのです。よりほかにない個性やデザインの美しさ、客層が求められるのです。
「昔の名前で出ています」作戦は、知名度が簡単に得られる半面、どうしても過去のイメージを引きずります。5代目CR-Vは、国内で本当に「CR-V」と名付けるのにふさわしいクルマだったのか? 価格戦略も含め、クルマの出来がいいだけに少々残念。
思い切って国内専用の顔をつけるか、あるいは「CR-Vホニャララ」みたいに車名に何かプラスアルファを加えてもよかったのかもしれませんね。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
[日経トレンディネット 2018年10月31日付の記事を再構成]
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