女性も転勤はした方がいい 新たな土地で自分を発見
そごう・西武執行役員 釣流まゆみ氏
釣流まゆみ・そごう・西武執行役員
管理職として活躍する女性が仕事やプライベート、働き方への思いを自らつづるコラム「女性管理職が語る」。様々な女性管理職が交代で執筆します。今回は、そごう・西武執行役員の釣流まゆみ氏。6回目の登場です。
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最近、驚いたことがありました。東京育ちの女性マネージャーが、転居を伴う転勤は考えられないと言ったことです。日ごろから、バリバリ仕事をこなす女性の口から聞いたので、さらに驚いたのです。聞くと、女性社員に多いといいます。
当社も社員は全国勤務の可能性がありますが、個別に可否を聞いています。ご本人は全国どこでも大丈夫ですと答えていても、実際には抵抗があるようなのです。私の経験から正直に言いますが、転勤は経験した方がよいと思います。
私は2004年に西武大津店の販売部長を拝命し、初めての引っ越しをしました。東京に生まれ育ち、自宅を出たことが無かったのです。
勤務地の変更が無かったわけではなく、首都圏で4店舗と本社勤務を経験し、違う環境で仕事することには慣れていました。しかし、東京からまったく離れることには不安がありました。そんな中、深く考える間なく、西武大津店に着任することとなったのです。
関西の生活は思った以上に東京とは違いました。言葉の面では、両親が広島出身で家の中は広島弁だったのでイントネーションに違和感はなく、私の話し方も東京弁と違うらしく、すんなりと溶け込めた……ようです。
職住の距離感には戸惑いました。当時は通勤に30分以上はあり得ないのが関西でした。1時間通勤が当たり前の東京での私は、その間にウオーミングアップし、クールダウンしていました。30分足らずでは、仕事脳を休ませるには短いと当初は感じました。
最も違ったのがオフタイムです。東京では大好きなショッピングを言い訳に競合店を見て歩き、半分仕事のようなものでした。関西のオフは全くオフ。周囲の皆さんはカニを食べに行ったり、すてきなお店のランチに行ったり。郷に入っては郷に従え。私も完全に仕事を忘れて楽しみました。
思えば、これがお客様の生活感覚を知るきっかけでした。百貨店にきてくださるお客様の店の中以外の生活を知ることでお客様に近づき、お客様も近づいてくださいました。本当に素晴らしい時間だったと思います。
先日、広島に出向く機会がありました。当社は1997年以来、「スタークラブ」として半期に1度、業績上位3%の販売員の方を表彰しています。そごう広島店で開かれた授賞式で、久しぶりに西武大津店でお世話になったお取引先の方々にお会いしました。本当に良くしていただき、思い出に残る方々です。お会いできたことがうれしく、つくづく私は関西の水があっているのだと思うと同時に、転勤先の関西を心から楽しんだことを強く思い出しました。
今までと全く違う文化に触れ、人の情に触れることの素晴らしさを、女性キャリアの皆さんにも、ぜひ経験していただきたいと思うのです。
縁もゆかりもないところに、縁やゆかりができるのです。ネットでいくらでもつながる世の中ですが、顔を見ながら、お互いの細かなニュアンスを直接感じ、新たな自分を発見する機会を得る。これが転勤というものだと思っています。チャンスをぜひものにして、新たな一歩を踏み出していただきたいと思います。
津田塾大卒。西武百貨店(現そごう・西武)入社後、池袋店婦人雑貨部に配属。2008年に大津店の店長。10年執行役員(現任)。17年文化プロモーション部長(同)。
[日経産業新聞2018年11月8日付]