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山田錦じゃワクワクしない 埼玉・石井酒造の地酒魂

ぶらり日本酒蔵めぐり(6)

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NIKKEI STYLE

埼玉県幸手市にある創業178年の酒蔵、石井酒造の社長である石井誠さんは31歳という若さを武器に、消費者の耳目と舌に訴える斬新なアイデアを次々と発信している。20代だけが携わるマーケティング・プロジェクト、シャープとのコラボレーション――。常識を打ち破り、日本酒ファンを開拓する挑戦が始まった。

100種類以上の日本酒銘柄をそろえる地酒のアンテナショップ、名酒センターに石井酒造の3つの銘柄が並んでいる。「飲みに行ったついでに営業したところ、置いてもらえるようになりました」と石井さん。御茶ノ水店(東京・文京)で飲み比べてみると、純米、純米吟醸、純米大吟醸がそれぞれ、ずいぶん違った顔つきで迫ってきた。

これは石井酒造の特徴らしい。「蔵としての一貫性を追求するよりむしろ、純米酒、大吟醸など種類によって酒造りの設計段階から異なる方向を目指し、差別化しています」。「純米大吟醸 一酔来福」は原料米が五百万石。すっきりとして淡麗だ。対して、「純米酒 豊明」は日本酒度が-16。芳醇(ほうじゅん)でかなり濃厚な味わいだが、しつこさは感じさせない。ちなみに日本酒度は水に対する糖分などの比重を示す数値で、一般にマイナスに振れるほど甘口とされる。

この濃厚さはどこから来るのか。石井さんは「仕込み水を少なめにしています」と明かす。通常、コメ1に対して水1.3~1.4の比率で仕込むところを「水の割合を少なくし、醪(もろみ)の段階で発酵しにくい状態を保ち、濃厚さを引き出します。スペックとしてはかなり甘みが強くなります」

淡麗辛口は一時ほどのブームではないが、飲み屋で注文する際につい「淡麗」「辛口」などと口走る日本酒好きは少なくない。淡麗辛口し好に逆行して、純米酒 豊明は設計された。「淡麗辛口は合わせる料理を選びます。こってりした洋食や脂っこい肉料理には酒が負けてしまいます。味の濃い料理でも合わせられるのがうま味の強い酒です」

女性の飲み手が増えていることも意識している。「香りの華やかさや、少し甘みを感じられる味わいは女性や若者を中心に新しいニーズに合致しているはずです」と石井さんは分析する。試飲会やイベントでじかに声を聞くうち、日本酒に対するイメージが変化する兆しを感じ取っているという。

純米酒 豊明の原料米はさけ武蔵。埼玉県農林総合研究センターが開発した酒造好適米だ。「さけ武蔵は大粒で心白(コメの中心部分)が大きく、軟らかいコメです。高精白(高い比率でコメを削る)には向かない、と思っています。一方で味わいが出やすい特徴もあります」。純米酒 豊明が芳醇で濃厚なのはコメの特性を生かした結果でもある。

そのさけ武蔵を巡って石井さんたちは昨年度、冒険をした。全国新酒鑑評会に出品する酒の原料にさけ武蔵を採用したのだ。出品酒は大吟醸だから精米歩合(コメを削った残りの比率)は50%以下と定められている。心白が大きく削りに向かないうえ、味わいが出やすいさけ武蔵を使い、醸造工程でアルコールを添加しない純米酒で、あえて鑑評会に挑んだ。

「山田錦を使って出品することにワクワクしないんです。みんなやってることですから。しかしもし、さけ武蔵で金賞が取れたら、と考えるとドキドキするんですよね。誰もやったことのないことですから」。出品酒の9割がたは山田錦を使っている。平成28酒造年度(2016年秋~17年冬)には石井酒造も兵庫県産山田錦で造り金賞を獲得している。

なぜさけ武蔵にこだわるのか。「福島でも埼玉でもどこの蔵でも、原料米は兵庫県産山田錦。理由は鑑評会の審査に通る酒を造りやすいからです。それって、地酒の蔵としてどうかな、と疑問を感じていました。造りにくくても自分たちのアイデンティティーを主張できる酒を出品したいと考えるようになりました」

さけ武蔵は幸手市内の1軒の農家から調達している。「ワインでいうテロワールのような地産へのこだわり、農家との連携のストーリーが共感を得やすいのだと思うんです」。農家の顔が見えると「酒造りの気合が違う」とも。

さけ武蔵で出品酒を造るために、石井さんは醸造責任者らと勝機を探った。当然、麹(こうじ)菌も酵母も前年とは一新する。例えば酵母は日本醸造協会が頒布する「きょうかい1901」にした。「出品酒の多くで使われる、華やかな香りの1801より酸度が少し出るタイプです。醸造アルコールを添加しない純米にする分、味わいが濃くなると予測し、酸度を上げてキレ感を出す、という手を打ちました」

醸造過程でもさまざまな仮説を立て、逆算する形で対策を講じた。しかし結果は、賞を逃した。「撃沈でした。山田錦というコメの偉大さを改めて知らされた気がします。それでも挑戦の過程が次の土台になると考え、今年度の作戦を練っているところです」。酵母を2種類、ブレンドするなど、仮説と実験を繰り返しているという。

石井さんは石井酒造の8代目。2013年に26歳で社長に就いた。最初に手がけたのは「二才の醸」という新銘柄を立ち上げるプロジェクトで、クラウドファンディングの手法を活用した。ほぼ1カ月の間に目標金額の2倍以上の約200万円が集まった。社長をはじめ、醸造責任者も銘柄ラベルのデザイナーもクラウドファンディングの運営者も、そして原料米を栽培した農家まで全員20代だった。

若さを武器に、他社には難しい、20代に照準を絞ったマーケティングで「新生・石井酒造」を印象づける戦略だ。青二才からとったという「二才の醸」には「未熟なだけではないぞ、という気概を込めました」。石井さんが30代に突入した今、「二才の醸」プロジェクトはどうなったのだろうか。

「今年から『二才の醸』銘柄は、次の次の造り手に譲渡されています」と石井さん。経験がものをいう酒造の世界で、「オール20代」が条件の商品作りが綿々と受け継がれていることに驚く。2016年から2シーズン、「二才の醸」を造った2代目は宝山酒造(新潟市)、3代目は「御慶事」が主力銘柄の青木酒造(茨城県古河市)だ。「孫が生まれたような気分です」と石井さんは笑う。

2017年3月から6月まで販売した「雪どけ酒 冬単衣(ふゆひとえ)」はシャープとのコラボレーションが話題を呼んだ。凍らないぎりぎりの温度、-2℃を飲み頃として提案。シャープが液晶材料の研究で培った蓄冷技術を応用して開発した保冷バッグ(酒瓶を覆うカバー)を利用することで適温を保てる仕組みだ。

石井さんの知人から「シャープが蓄冷技術の商品化を探っている」という情報がもたらされ、アイデアを出すなどのやりとりを続けるうちに連携に発展したという。濃厚でコクのある純米吟醸酒を氷点下に冷やし、口に含んだ際の温度上昇によって味わいの微妙な変化が感じ取れる。「試飲イベントなどではこの件で石井酒造を知り、ブースを訪ねてくれるお客さんもいます」と石井さんは手応えを感じている。

石井さんは東京で情報発信力を確保することが地元での注目度向上につながると考え、「東京からの逆輸入」を目標に掲げ、東京市場の開拓に取り組んできた。シャープとの連携に踏み切ったのも、その文脈での判断だった。埼玉県外での売上高比率は社長就任時の1割から上昇し、3割を占めるまでになった。東京でのイベントには、声がかかれば積極的に参加している。

10月下旬には東京・新木場で開かれたハロウィーンのダンスパーティーにブースを出した。「日本酒をそのまま出せそうなイベントでもなかったので、ソーダ割りを『サムライ・ハイボール』などと名づけて売りました。樽(たる)から酒を振る舞うパフォーマンスもやりました」。外国人客からは好評だったが、日本人の若者の反応は鈍かったという。

「若者の日本酒に対する抵抗感は想像以上に強いですね」。日本酒を飲まない層をどう引き込むか。「ハロウィーンでビールやワインが似合って日本酒が似合わない理由はありません」。日本酒のイメージを転換するために、日夜、知恵を絞っている。

石井酒造は東武鉄道日光線幸手駅から徒歩約15分。江戸時代、日光御成道と日光道中(日光街道)が合流する宿場町として、幸手宿は栄えた。権現堂堤はサクラの名所として知られる。埼玉県北東部はコメどころとして知られ、幸手は幕府献上米「白目米」の産地だった。石井酒造は今も白目米を原料にした酒を醸造している。

(アリシス 長田正)

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