靴職人が惚れたスーツ職人のワザ
「隣の畑の匠」を魅せるスーツ2018(上)
口には出さないけれど、心の中では敬服……優れた職人どうしには、そんな密かなシンパシーがある。それは作るモノが違ってもしかり。2018年の終わり、照れる彼らに"ここには惚れた"を告白してもらった。
SUITS LOVED BY ARTISANS 01
左:川口昭司( 靴職人/マーキス ビスポーク・シューメーカー )
「控えめなエレガンスを追求する姿勢に深く共感。自分を高めてくれるスーツです」
右:佐藤英明( ペコラ銀座 )
「見えないところにどれだけ手間をかけるかで20年後の品質が決まります」
英国で名だたるビスポーク靴ブランドのアウトワーカーとして活躍した後、2008年に帰国し「マーキス」を立ち上げた川口氏。非常に高い技術を持ちながらそれを誇示せず、控えめさを美学とする氏は、佐藤氏の作風に深い共感を覚えるという。
「佐藤さんがおっしゃることは、まさに私が靴作りで目標とするところでもあります。初めてペコラのスーツを着たときは、着心地の良さに驚きました。しっかり体に沿っているのに、膝をついたりかがんだりしても窮屈でないのです。靴と服の相性に関しても、佐藤さんの仕事ぶりを見ながら勉強させてもらっています」(川口さん)。
「これ見よがしなビスポーク感を強調するより、クリーンに仕立てるのが好み。ただその分、"内側"にこだわります。芯地や糸1本までイタリアから輸入してますし、見えないところこそ丁寧に作る。これによって10年、20年後の美しさが変わるのです」(佐藤さん)
〈 スーツの見どころはココ 〉
丁寧な縫製が生むクリーンな表情
ゴージやラペルの端、やや大きめのフラワーホールに至るまで、非常に丁寧なステッチが施されている。手縫いを誇張しない縫製が上品だ。
肩線もあえて割り縫いに
ビスポークテーラーでは肩線の縫代を片倒しにするケースも多いが、ペコラでは割り縫いに。縫い目がフラットになるためクリーンな印象になる。
SUITS LOVED BY ARTISANS 02
上:中川一康( シューリペア職人/ユニオンワークス )
「中寺さんの感性、美意識、技術には全幅の信頼を置いています」
下:中寺広吉( バタク )
「端正な佇まいと、動いたときの美しさ、それを大事に作っています」
靴好きなら知らない人はいない、シューリペアの第一人者・中川氏。スリムな長身にビシッとスーツをまとった姿は雑誌などでお馴染みだ。氏のファンなら、そのスーツがバタクで誂えたものであることもご存じだろう。「もう20年ほど、スーツはバタク一筋です。オーナーでモデリストの中寺さんには全幅の信頼を置いていて、生地とスタイル以外はほぼお任せ。もちろん仕上がりは大満足です。スーツ自体が主張せず、最高の"額縁"となって私を引き立ててくれるのです。そして何といっても、中寺さんご自身が大変魅力的。彼の完璧な出で立ちにはいつも憧れています」(中川さん)
「着た人が動いているときにこそ美しいスーツを目指しています。仕立ての基本は胸周りにゆとりを持たせ、腰から下を体に沿わせたドレープスーツ。また、見た目は端正でもソフトテーラリングを基本としています。実際着ていただければ、とても柔らかな着心地を感じていただけますよ」(中寺さん)
〈 スーツの見どころはココ 〉
丸みを帯びた柔らかな肩周り
英国的な品格を薫らせつつも、柔らかい仕立てがバタクの基本。肩パッドは薄く、丸みを帯びたナチュラルショルダーが大変エレガントだ。
程よくゆとりを持たせたスリーブ
アームホール部分はフィットさせつつ、袖は適度なゆとりを持たせて仕立てている。動きに合わせて自然なドレープを生み、品格ある佇まいを演出。
※表示価格は税抜きです。
撮影/筒井義昭、若林武志、中西一朗、恩田拓治、荒金篤史、手塚 優、TAKA MAYUMI、竹内裕二(BALLPARK)、久保田彩子 スタイリング/武内雅英(CODE)、吉野 誠、森岡 弘、宮崎 司(CODE) ヘアメイク/MASAYUKI(The VOICE)、山田久美子、TOYO(bello) 文/秦 大輔、安岡将文、吉田巌(十万馬力) 構成・文/小曽根広光、伊澤一臣 撮影協力/EASE
[MEN'S EX 2018年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。