レクサスのデジタルアウターミラー 5つのメリット
新型「レクサスES」に世界で初めて搭載された「デジタルアウターミラー」。夜間や雨天でもクリアな映像で後方確認ができるほか、死角も少なくなる……。現役ドライバーでありながら、日本カーオブザイヤー選考委員を務める木下隆之氏がサイドミラーのデジタル化のメリットを明らかにします。
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待望の「デジタルアウターミラー」が誕生した。世界初の称号を得たのは、レクサス。新型「レクサスES」の記者発表会場で、華やかなスポットライトを浴びる新型ESのサイドミラーのその位置に、それはあった。
デジタルアウターミラーは、ドアミラーがデジタルモニターに置き換えられたものだ。車体後方に設置されたカメラが写す後方全体の映像をルームミラーに表示する「デジタルインナーミラー」とは、分けて考える必要がある。
レクサスESの場合、本来ドアミラーがあった位置にデザイン性の高いアームを設置。そこにカメラを内蔵し、そのカメラがとらえた映像を車内の左右の5インチモニターに表示するという構成だ。
デジタルにする5つのメリット
デジタルにするメリットは大きく5つある。ひとつめは、映像がクリアである。特にうす暗い時間帯でも明るく映る。スマホのカメラが夜でも明るく映るアレと同じである。後続車のライトに目がくらんでしまうこともない。サイドウインドーの内側にモニターがあるから、ガラスが曇っているときや水滴で見づらいときだって視界は良好なのだ。
2つめは最大のメリットで、死角が少ないことだ。レクサスの場合は、ウインカーを作動させたり、バックギアに挿入したりした場合に、画角が変わるように設定されている。鏡では映らない斜め後方の障害物などもクリアに映してくれるのだから感心する。今後は、センサーが感知した障害物にあわせて角度を自動調節するようになるだろうと想像する。
3つめに、副次的に斜め前方視界が戻ってきたことも挙げられる。これまで長い間、象の耳のようなドアミラーが斜め前方の視界を奪ってきた。交差点での事故が少なくないのは、ドアミラーに原因があるとも個人的に思っている。
そう、デジタルアウターミラーの登場で、いよいよクルマから死角がなくなるのかもしれない、とほくそ笑んだ。
4つめは、視線の移動の少なさ。新型レクサスESではまだ初導入ゆえ、ユーザーの戸惑いを考慮して、ドアミラーの内側にモニターを設置している。だが、将来的にはそれこそインパネの中で表示させることも技術的には難しくはないし、フロントガラスディスプレーに映しだす時代になるのだろう。
5つめのメリットは、クルマのサイド周りの突起がなくなること。つまり、歩行者安全が飛躍的に高まる。前面投影面積(物体を真正面から見たときの面積)が減るから、空気抵抗が改善される。走行性能や環境性能にも貢献するのである。こんなにいいことはない。
ああ、こうしてコラムを書いていて、ワクワクが止まらない。
唯一のデメリットは脳の変換速度
実はこれは、新時代の扉を開けるような出来事である。かねがね僕は、デジタルアウターミラーの誕生を心待ちにしてきた。
というのも、2015年の東京モーターショーでレクサスが披露した「LF-FC」にはサイドミラーがなかった。本来ならばサイドミラーがあるAピラーの付け根はのっぺりとしており、後方を写すカメラを目立たぬ位置に仕込んでいたのである。「これはデジタルミラー時代到来だぞ」と、浮き足立ったことを記憶している。
国連の「自動車基準調和世界フォーラム」で「CMS(カメラモニタリングシステム)」の是非が議論されたのが2017年3月。そこで「バックミラー等に代わるカメラモニタリングシステムの基準」が整備された。あれから1年半。皮切りはレクサスだったというわけ。
唯一のデメリットは、脳が映像を変換する速度の問題だ。そもそも人間の脳は、鏡を通じての後方確認は「遠視点」でとらえている。鏡の中の被写体にピントを合わせているわけだ。だが、デジタルのそれは「近視点」とよばれ、デジタル画面そのものにピントを合わせる。そこに一瞬の脳の混乱がある。
実は僕がレースを戦っているレーシングマシンも、バックモニターはデジタルである。レース界に普及しはじめてもう10数年がたつ。最初はなじまなかったが、使っているうちにメリットがデメリットを上回ることに気がついた。
コンマ1秒での状況判断が勝敗を左右するモータースポーツの世界でもデジタルミラーが優位なのだから、これが公道に普及しないわけがない。
むかしむかし、自動車はすべてフェンダーミラーだった。それがドアミラーに移行していった。ドアミラーの普及が遅れたのは、「ドアミラーは死角が少ないけれど、視線の移動が多いから危険だよ」というデメリットを指摘する声が少なくなかったからだ。
そんなたわごとは過去のこと。デジタルアウターミラーは死角も少なく視線の移動も少なく、そしてクリアで性能もいいのだからこれはもう革命である。
レーシングドライバー、ブランドアドバイザー、ドライビングディレクター、ライター。数々の全日本レースに加え、欧州のレースでもシリーズチャンピオンを獲得。スーパー耐久では史上最多勝利数記録を更新中。2018年はプランパンGTアジアシリーズに参戦し、シリーズチャンピオン獲得。日本モータージャーナリスト協会に所属。日本カーオブザイヤー選考委員。
[日経トレンディネット 2018年11月5日付の記事を再構成]
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