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ビジュアル音楽堂

2018/11/10

ビジュアル音楽堂

一般にグロッケンにはアルミ合金と真鍮(しんちゅう)を混ぜた素材が使われる。しかしこれでは音色が金属的で鋭くなりすぎる。そこで「アルミ合金だけでできている柔らかい感じのグロッケンを使ってみたら、本当にハーモニーが出来上がってきた」。ライヒ氏はこの移行の部分を最も高く評価してくれたという。

アンサンブルで聴けなかった音を確かに聴く

こうしたグロッケンの音色の工夫などによって「ライブでは分かりにくかった口笛やピッコロの音もバランスよく聴けるようになった」。アンサンブルの仲間と演奏していたときは「なぜこの部分でわざわざピッコロ奏者が吹くのだろうかと疑問を抱いていた」。それが今では「ハーモニーがうまく作られたときに、その倍音からピッコロの音色が連想されることが分かるようになった」。ライヒ氏の助言も手伝って作曲家の意図通りに口笛やピッコロやボイスを鳴らすことに成功した。

パーカッショニストの加藤訓子氏(11月2日、東京都中央区の山野楽器銀座本店)

加藤氏は高音質で知られる英リン・レコーズと契約し、ライヒ、ペルト、クセナキス各氏ら現代音楽の大御所たちの作品集CDを相次ぎ出してきた。2017年リリースのCD第4弾「J・S・バッハ マリンバのための無伴奏作品集」(2枚組)は、バッハの「無伴奏チェロ組曲」や「無伴奏バイオリンソナタ」を独特の音色と奏法のマリンバで表現した異色作で、リン・レコーズの年間アルバムチャート第1位を獲得した。17年10月27日には東京カテドラル関口教会聖マリア大聖堂(東京・文京)でこのCDにちなんだバッハ作品のコンサートを開き、満席の会場でバッハの新たな可能性を示した。

そしてバッハの次は「ライヒの音楽に自然に戻ってきた」。しかもバッハ演奏を経て「音や楽器への確信、塊のような確かなものを得られたので、すごく軽やかな感じで新たな挑戦に乗り出すことができた」。だから一人による多重録音という技術ばかりを傾聴すべきではない。「ドラミング」の響きからは打楽器奏者としての彼女の喜びが幾重にもなって伝わってくる。地平線を望む大地と高く広がる青空のように、どこまでも明るく開放的な音のエネルギーに満ちている。

演奏から起こることを「増幅させ、空気感が震動を変えていく」ところがミニマルミュージックの大事なポイントだと加藤氏は指摘する。そぎ落とされた音型から無数の小世界が生成してくる。そんな開放され変化し躍動し続ける音楽。「作曲家と演奏家がファイトしながら、その曲をも超えて、音楽として人に伝わるパワーが生まれてくればいい」と彼女は願う。現在82歳のライヒ氏。彼が「ドラミング」を作曲してから半世紀近い今、一人のパーカッショニストがミニマルミュージックの真意を鳴らす。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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