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ビジュアル音楽堂

2018/11/10

ビジュアル音楽堂

全4楽章の「ドラミング」は素朴な太鼓としてのボンゴから始まり、木製のマリンバ、金属製のグロッケンシュピーゲルの演奏に引き継がれ、第4楽章ではすべての楽器が共演する。樹木など自然の利用から鉄器の発明を経て様々な道具を使うまでの文明史をたどりながら、底流にある人類の原初的な衝動や興奮、快楽を表しているかのような音楽だ。

リズムをわずかにずらしていくフェーズ

第1楽章では打楽器奏者4人がボンゴを打ち鳴らす。1つの音から始まり、徐々に音を重ねて、特徴のあるリズムの基本テーマが確立する。これを何度も繰り返した後、「フェーズ・シフティング」という場面が始まる。「基本テーマのリズムを一人が維持し、もう一人がわずかに前へとずれてゆく。2倍の細かさでリズムが鳴る瞬間もある」と加藤氏は説明する。これがさらに少しずつずれていき、新たな異なるリズムとアクセントが生まれる。

パーカッショニスト加藤訓子氏の最新CD「スティーヴ・ライヒ ドラミング」(10月12日世界発売、発売元:英リン・レコーズ、輸入・発売:東京エムプラス)

第2楽章では音階のある鍵盤を持つマリンバが登場する。実は第1楽章でもボンゴ4個を「ソラシドの音程でそれぞれチューニングしている」ため、リズムの中に旋律を聴くことができる。それが第2楽章になると「音程をしっかり調律したマリンバに同じソラシドが引き継がれる。マリンバがまた基本テーマを構築していき、その後に再びフェーズを起こして別のハーモニーが出来上がる。その響きをさらに増幅させて、次第に高みへと上っていく」。ここまで来れば聴き手もかなりの興奮状態だ。ロックやテクノ、ジャズのグルーブ感を超えるノリさえある。

第3楽章で活躍するのはグロッケンシュピーゲル。「雪の結晶や星の輝き。グロッケンの響きはキラキラしていて美しい」と言う。明晰(めいせき)な音色のグロッケンへと単純な旋律が引き継がれる場面にうっとりする聴き手は多いだろう。しかし加藤氏は「このマリンバからグロッケンへの移行が最も難しい」と話す。

マリンバの高音部に達したところでグロッケンのキラキラした音色へと旋律が受け渡されていくのだが、「その音色の選択で成功例が少ない。金属的な音色だとハーモニーや音程が聴きづらくなる」。加藤氏は欧州でアンサンブルの仲間と「ドラミング」を数百回も演奏したが、「グロッケンの音が聴けず、音程が感じられないこともよくあった」と言う。この点を解決したいという思いが、今回一人で多重録音に挑んだ理由の一つでもある。「私には試したいことがあった」。それはアルミ合金素材のグロッケンを使うことだった。

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