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パーカッショニスト加藤訓子 ライヒの大作1人12役

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NIKKEI STYLE

世界的パーカッショニストの加藤訓子氏が、米国の作曲家スティーブ・ライヒ氏の大作「ドラミング」を1人12役で多重録音した。リズムと旋律の執拗な反復と微細な変化を特徴とするミニマルミュージックの代表作だ。マリンバから口笛やピッコロに至るまで、すべての音符を一人で鳴らしつくした。ロックをしのぐほどのグルーブ感を生む演奏について加藤氏に聞いた。

キューバ音楽やサルサで重用される打楽器ボンゴによるアフリカ風のリズムがスピーカーから延々と流れる。ステージ上には2ペア(4個)のボンゴ。加藤氏がたたき続けるボンゴの生演奏が再生音源と絡まり合い、独特のグルーブ感を生み出す。11月2日、山野楽器銀座本店(東京・中央)で開かれた加藤氏の「ドラミング」ミニコンサート。全4楽章、約70分間の楽曲のうち第1楽章を、1人での生演奏とスピーカーからの音源再生の組み合わせで披露した。

マリンバからピッコロまで12人分を1人演奏

スピーカーから流れる音源もすべて加藤氏の演奏によるものだから、「カラオケ」と呼ぶのは当たらない。一人で全パートを演奏した「ドラミング」は世界でも初めてという。「細かい音まで全部聴ける」とライヒ氏も絶賛した加藤氏のCDアルバムは10月12日世界発売の「スティーヴ・ライヒ ドラミング」(発売元:英リン・レコーズ、輸入・発売:東京エムプラス)。彼女が1人12役でレコーディングした曲なので、ライブと音源が混然一体となったコンサートになる。

最短・最小のシンプルなリズムと旋律を繰り返し、微細な変化を加えながら移行していくミニマルミュージックは「反復音楽」ともいわれる。その大御所がライヒ氏だ。「彼はドラマーだった。打楽器奏者に通じるところがある」と加藤氏は言う。自らの音楽を求めてアフリカに渡ったライヒ氏がその成果として1971年に世に問うたのが「ドラミング」だ。通常はボンゴとマリンバ、グロッケンシュピーゲルの打楽器奏者9人、ピッコロとボイス、口笛1人ずつの計12人で演奏される。

「根源的なリズムとシンプルな音。この曲が契機となってミニマルミュージックが確立された」と加藤氏は「ドラミング」について指摘する。「単純なリズムを一人一つもらって1時間延々と演奏するだけなのに、楽しくてトランス状態になる」。日本をはじめ世界各国の伝統行事には、太鼓で同じリズムをずっとたたき続け、その上に笛や歌が乗っていく祭りばやしが多い。ループのような反復音楽の根底には「人間に興奮状態を引き起こす力がある」と話す。

 全4楽章の「ドラミング」は素朴な太鼓としてのボンゴから始まり、木製のマリンバ、金属製のグロッケンシュピーゲルの演奏に引き継がれ、第4楽章ではすべての楽器が共演する。樹木など自然の利用から鉄器の発明を経て様々な道具を使うまでの文明史をたどりながら、底流にある人類の原初的な衝動や興奮、快楽を表しているかのような音楽だ。

リズムをわずかにずらしていくフェーズ

第1楽章では打楽器奏者4人がボンゴを打ち鳴らす。1つの音から始まり、徐々に音を重ねて、特徴のあるリズムの基本テーマが確立する。これを何度も繰り返した後、「フェーズ・シフティング」という場面が始まる。「基本テーマのリズムを一人が維持し、もう一人がわずかに前へとずれてゆく。2倍の細かさでリズムが鳴る瞬間もある」と加藤氏は説明する。これがさらに少しずつずれていき、新たな異なるリズムとアクセントが生まれる。

第2楽章では音階のある鍵盤を持つマリンバが登場する。実は第1楽章でもボンゴ4個を「ソラシドの音程でそれぞれチューニングしている」ため、リズムの中に旋律を聴くことができる。それが第2楽章になると「音程をしっかり調律したマリンバに同じソラシドが引き継がれる。マリンバがまた基本テーマを構築していき、その後に再びフェーズを起こして別のハーモニーが出来上がる。その響きをさらに増幅させて、次第に高みへと上っていく」。ここまで来れば聴き手もかなりの興奮状態だ。ロックやテクノ、ジャズのグルーブ感を超えるノリさえある。

第3楽章で活躍するのはグロッケンシュピーゲル。「雪の結晶や星の輝き。グロッケンの響きはキラキラしていて美しい」と言う。明晰(めいせき)な音色のグロッケンへと単純な旋律が引き継がれる場面にうっとりする聴き手は多いだろう。しかし加藤氏は「このマリンバからグロッケンへの移行が最も難しい」と話す。

マリンバの高音部に達したところでグロッケンのキラキラした音色へと旋律が受け渡されていくのだが、「その音色の選択で成功例が少ない。金属的な音色だとハーモニーや音程が聴きづらくなる」。加藤氏は欧州でアンサンブルの仲間と「ドラミング」を数百回も演奏したが、「グロッケンの音が聴けず、音程が感じられないこともよくあった」と言う。この点を解決したいという思いが、今回一人で多重録音に挑んだ理由の一つでもある。「私には試したいことがあった」。それはアルミ合金素材のグロッケンを使うことだった。

 一般にグロッケンにはアルミ合金と真鍮(しんちゅう)を混ぜた素材が使われる。しかしこれでは音色が金属的で鋭くなりすぎる。そこで「アルミ合金だけでできている柔らかい感じのグロッケンを使ってみたら、本当にハーモニーが出来上がってきた」。ライヒ氏はこの移行の部分を最も高く評価してくれたという。

アンサンブルで聴けなかった音を確かに聴く

こうしたグロッケンの音色の工夫などによって「ライブでは分かりにくかった口笛やピッコロの音もバランスよく聴けるようになった」。アンサンブルの仲間と演奏していたときは「なぜこの部分でわざわざピッコロ奏者が吹くのだろうかと疑問を抱いていた」。それが今では「ハーモニーがうまく作られたときに、その倍音からピッコロの音色が連想されることが分かるようになった」。ライヒ氏の助言も手伝って作曲家の意図通りに口笛やピッコロやボイスを鳴らすことに成功した。

加藤氏は高音質で知られる英リン・レコーズと契約し、ライヒ、ペルト、クセナキス各氏ら現代音楽の大御所たちの作品集CDを相次ぎ出してきた。2017年リリースのCD第4弾「J・S・バッハ マリンバのための無伴奏作品集」(2枚組)は、バッハの「無伴奏チェロ組曲」や「無伴奏バイオリンソナタ」を独特の音色と奏法のマリンバで表現した異色作で、リン・レコーズの年間アルバムチャート第1位を獲得した。17年10月27日には東京カテドラル関口教会聖マリア大聖堂(東京・文京)でこのCDにちなんだバッハ作品のコンサートを開き、満席の会場でバッハの新たな可能性を示した。

そしてバッハの次は「ライヒの音楽に自然に戻ってきた」。しかもバッハ演奏を経て「音や楽器への確信、塊のような確かなものを得られたので、すごく軽やかな感じで新たな挑戦に乗り出すことができた」。だから一人による多重録音という技術ばかりを傾聴すべきではない。「ドラミング」の響きからは打楽器奏者としての彼女の喜びが幾重にもなって伝わってくる。地平線を望む大地と高く広がる青空のように、どこまでも明るく開放的な音のエネルギーに満ちている。

演奏から起こることを「増幅させ、空気感が震動を変えていく」ところがミニマルミュージックの大事なポイントだと加藤氏は指摘する。そぎ落とされた音型から無数の小世界が生成してくる。そんな開放され変化し躍動し続ける音楽。「作曲家と演奏家がファイトしながら、その曲をも超えて、音楽として人に伝わるパワーが生まれてくればいい」と彼女は願う。現在82歳のライヒ氏。彼が「ドラミング」を作曲してから半世紀近い今、一人のパーカッショニストがミニマルミュージックの真意を鳴らす。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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