横抱きで少しずつ… 乳児に薬を飲ませる4つのコツ
子どもへの薬の上手な飲ませ方(2)
小児科門前の薬局で子どもの服薬指導に日々奮闘する薬剤師で、『極める!小児の服薬指導』(日経BP社)の著者でもある松本康弘さんが、子どもに薬を飲んでもらうための工夫を紹介します。明日から使える具体的なノウハウ満載です。
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薬局で薬の飲ませ方を長時間説明しても、心配そうな顔をして帰る保護者が結構います。こんなときは、自分の服薬指導がどれくらい役に立っているのか心配になります。
場合によっては、口頭で説明するよりも、保護者の前で実際に子どもに飲ませてあげることが、最も効果的な服薬指導のはずです。しかし、実際に薬局で薬を飲ませたことがある薬剤師は極めてまれです。
そこで、時間に余裕があるときに、自宅で子どもにうまく薬を飲ませられないと話す保護者を中心に、薬剤師による服薬支援を試みました(写真1)。
最初の投薬は、初めて内服薬が処方された6カ月の男の子でした。お母さんに飲ませ方を説明したのですが、今ひとつ、表情がさえません。そこで、意を決して、「薬局で飲ませましょうか?」と切り出すと、「お願いします」と即答でした。
お母さんに待合室のソファに座ってもらい、スポイトと小皿とコップに水を入れて持っていきました。散剤(粉薬)に水を加えて、スポイトで吸って準備万端。赤ちゃんを預かり、抱っこして、スポイトで少しずつ飲ませました。すると、嫌がることなく、吸うようにして飲んでくれました。
一度成功すると自信が付き、様々なお子さんに飲ませてみました。成功することが多いのですが、時には失敗もします。口に薬を入れても吐き出す子や、手でスポイトを払いのける子など様々です。無理矢理の飲ませたお子さん(もちろんお母さんの許可を得て)の中には、薬局に入ってくると、こちらをじっと見て警戒する子もいました。しかし、失敗しても、感謝されることはあっても、責められることはありませんでした。
現在まで400例近く試しましたが、1歳半くらいまでなら、まずスポイトで大丈夫です。飲ませるコツは、次の4点です。
(1)横抱きで飲ませる
2歳までの子どもは、基本的には横抱きで飲ませています。薬を喜んで飲んでくれる子ならば、縦抱きでもうまく飲んでくれますが、服薬を嫌がる子では、縦抱きにすると、口の中に入れたあと、口を開けて薬を出します。
実際、縦抱きにすると、口を開いただけで、薬がこぼれます(写真2A)。また、器用な子なら、うまく口に入れても出してしまいます。一方、横抱きにすると口がポケット状になって、なかなか出すことができません(写真2B)。
(2)手は固定する
当然ですが、私のような知らないおじさんに抱っこされ、スポイトを口に入れられようものなら、子どもは嫌がります。すると、スポイトがはじかれたり、薬がこぼれたりするので、抱っこする時の赤ちゃんの右手と脇の間に、私(投薬者)の体を入れて、赤ちゃんの右手を固定します。さらに、投薬者の左腕で赤ちゃんの左手を押さえて動けなくします(写真3)。こうすれば、多少動いても大丈夫です。
(3)薬は少しずつ飲ませる
また、薬をスポイトで一気に入れると、量が多いため吐き出す子がいます。スポイトの目盛で0.5mLずつ飲ませると、唾液をためない限り吐き出すことは困難です。「スポイトで薬を0.5mLずつ口に入れて、一度スポイトを口から出す」「10秒間待って再度スポイトを口の中に入れてまた0.5mL入れる」…という動作を繰り返します。
(4)泣かせた方が飲ませやすい?
横抱きにすると1歳くらいのお子さんはよく泣き出します。オロオロするお母さんがいますが、逆にこの時がチャンスです。泣いているお子さんの口は大きく開いているので、スポイトを入れやすいし、大声を出しているので、薬を少しずつ入れると自然と薬液が喉に入っていきます。大泣きをするお子さんも、服薬後、お母さんに抱っこしてもらうとすぐに泣き止みます。
重要なのは少しずつ飲ませることです。横抱きにして少量ずつ飲ませると子どもは薬を吐き出せません。この方法は1歳半くらいまで有効です。
これについて、ある産婦人科医から、「横抱きで飲ませるときに誤嚥したりむせたりしませんか?」と質問がありました。育児書などでもそれを考慮してか、縦抱き図が多いのだそうです。
実は私も最初は縦抱きで飲ませていたのですが、そうすると乳児でも舌を上手に使って口の横から飲ませた薬を出すことがありました。横抱きで飲ませてみると、意外とこぼさなかったため、今は横抱きで飲ませています。
ただし、確かにむせる心配はあるので、少しずつ飲ませる必要があります。大泣きして気管に薬が入らないか心配な場合などは、一度、縦抱きにして、落ち着いてから再度チャレンジするように伝えています。
この横抱きにしてスポイトで飲ませる方法が通用するのは1歳半までで、2歳以降になると通用しなくなります。2歳以降の子どもへの飲ませ方に関するお話は、また次の機会にしてみたいと思います。
(1)薬を嫌がる子ども どのくらい飲めれば大丈夫?
ワタナベ薬局上宮永店(大分県中津市)。1956年生まれ。熊本大学薬学部卒業後、大手製薬企業の研究所勤務を経て、2001年に株式会社ワタナベに転職。最初に配属された店舗で、小児の服薬指導の難しさや面白さに魅せられ、患者指導用のパンフレットの作成などを積極的に行うようになった。小児薬物療法認定薬剤師。著書に『極める!小児の服薬指導』(日経BP社)。
[『極める!小児の服薬指導』(日経BP社)より再構成]
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