就活ルール廃止、多様な人材集めるためには賛成
ダイバーシティ進化論(出口治明)
経団連は2021年卒から、大学生らの採用面接の解禁日などを定めていた指針の廃止を決めた。僕の意見? 賛成に決まっている。だが、「外資系企業が先に採用してしまう」といったことが理由ではない。
その理由を説明する前に、まもなく終わる平成の始まり(元年・1989年)を振り返ってみよう。まずは世界の国内総生産(GDP)における日本のシェアだ。購買力平価(PPP)ベースの場合、平成元年は9%弱で、このあたりがピーク。当時の世界の株式時価総額トップ20はNTTが首位。日本企業はうち14社と実に7割を占めた時期もある。ところが今やGDPのシェアは4%強に半減し、時価総額トップ20に入る日本企業はひとつもない。
なぜ、こうなってしまったのか。現在の時価総額が高い企業の顔ぶれを見ればいい。トップ5に並ぶのは、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)とマイクロソフトだ。フェイスブックは2004年の設立で、人間にたとえれば14歳。これに対し、国内で時価総額トップのトヨタ自動車は、トヨタ自動車工業の設立を誕生とみなした場合で81歳だ。つまり、日本が経済的に落ち込んだ主因は新しい産業を生み出せなかったからである。
ではトヨタに代表される製造業と、GAFAや「ユニコーン」と呼ばれる未上場の急成長企業は何が違うのか。人材に注目すると、製造業の場合、働く人に占める大卒の割合は半数足らず。一方、GAFAやユニコーンはほぼ全員が大卒で経営幹部は博士や修士ばかりである。高学歴で多国籍なうえ、個性を貫くオタクが多い。そうした人たちがワイワイ、ガヤガヤ議論しているところから新しい産業が生み出されている。
ここまで分かれば、日本にまた日が昇るために何が必要かは明らかだ。企業は世界中から学生が集まる魅力的な職場をつくりあげ、多様な人材を採用しよう。将来を見据え、そうした理由で就活ルール廃止が語られるなら大賛成だ。学生はガンガン勉強しよう。学生時代に必死に学んだ経験がなければ、好きなことを突き詰めていく力も培われず、米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏のような逸材は出てこない。
人は皆、顔が違うように発想や興味も異なる。多様な人が集まらなければ面白い考えは生まれない。成長のカギはそこにこそある。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2018年10月5日付]
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