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朝原宣治さん 36歳で獲ったメダルとモチベーション 元陸上五輪メダリストに聞く(中)

日経Gooday

2018/11/8

加齢による体の変化と向き合いながらベストパフォーマンスを発揮するには、「楽で速い」が大切なキーワードになります。だから、走った直後の疲労感とゴール後の回復度合いなどを見ながら、フォームやトレーニング方法が本当に正しいかどうかを判断していました。自分の体を自分でプロデュースするような、最高に楽しい作業でした。

■他人でなく自分に勝つことで自信を取り戻す

――トレーニングを毎年変えて飽きないようにしていたとはいえ、モチベーションが落ちないのはやはりすごいです。

いや、32歳で挑んだアテネ五輪出場後の2004年の冬は、記録が落ち気味になったこともあり気持ちが下り坂になり、ほとんどトレーニングもせず、フェードアウトしかけていました。でも、2005年のシーズンは国内のライバルがあまり強くなくて、モチベーションが低い状態でもヘルシンキ世界陸上(2005年)の代表になってしまいました。そんな生半可な気持ちで挑んだものだから、案の定、結果も良くなく、400mハードルの為末大くんがメダルを獲得するという偉業を果たしても、「おめでとう」という気持ちしか湧かず、悔しさすらなかったですね。

でも、閉会式で僕が先頭になって、「See you in Osaka(大阪で会いましょう)」と書いてある横断幕を持って歩いたんですよ。もちろん、2007年に大阪で開催されることは知っていましたが、でもその瞬間、地元開催だから走りたいという気持ちがぐっと込み上げてきました。あの時、横断幕を持っていなかったら競技を続けていなかったかもしれない(笑)。

「横断幕を持って歩いているうちに『走りたい』って…」

今もお話ししたように、アテネ五輪(2004年)あたりから記録が落ち始めたのですが、その頃は人間としての価値も同じように落ちている気になっていました。「自分の競技パフォーマンス=自分の価値」なんて、それまで考えたこともなかったのですが、現に結果が出なければマスコミも取材に来なくなり、不安に陥ってしまいます。

一方で、フェードアウトしたまま引退すれば、引退後の人生、自信を持って歩けないかもしれないという思いもありました。だから、大阪の世界陸上を利用しようと思ったんです。誰かに勝ちたいとか、すごいタイムを出したいという以上に、もう一度、競技力を上げて自信を取り戻したいと。それが日々のトレーニングに挑む上での、大きなモチベーションとなって35歳の体を突き動かしたのだと思います。

――結果、2007年に地元・大阪で開催された世界陸上競技選手権大会4×100mリレーでアジア記録(38秒03)を樹立し、5位入賞を果たされました。

今まで体験したことのない熱気と大声援の中、最高の花道を用意してもらい、悔いなく引退できると思いました。でも、何となくですが、引退を発表しないままオフシーズンに入り、家族で旅行に出かけました。その宿泊先で、お風呂上がりに無意識にストレッチをしている自分がいたんです。ああ、これは本能的に翌年の北京オリンピックも走りたいんだなと思いましたね。選手続行を決めました。大阪世界陸上で引退した方がいいという声もありましたし、目指してもけがをして大阪世界陸上で引退しておけばよかったと後悔している姿も頭をよぎりましたが、引退会見でなく、続行会見を開きました。

2008年の北京オリンピック4×100mリレーでは、体調を崩しながら末続慎吾くんが素晴らしい走りを見せてくれたり、米国チームがバトンを失敗したりと様々な要因が重なりましたが、夢にまで見た五輪のメダルを獲得し、日本チームは一つの壁を突破したと感じました。

その後、男子4×100mリレーは僕やメダル獲得メンバーが抜けても記録を伸ばし続け、表彰台に乗る常連チームになりました。それまで日本人が陸上短距離の世界で表彰台に上ることは夢の話だったのに、面白いもので、人間、結果を出すことで壁という意識が一度取っ払われると、それまでの常識が常識でなくなるのだと感じました。

「結果を出すことで、壁の意識が取っ払われるんですね」

(下に続く)

(文 高島三幸、写真 水野浩志)

朝原宣治さん
1972年兵庫県生まれ。高校時代から陸上競技に本格的に取り組み、走り幅跳び選手としてインターハイ優勝。大学では国体100mで10秒19の日本記録樹立。同志社大学卒業後、大阪ガスに入社、ドイツへ陸上留学。2008年北京オリンピックの男子4×100mリレーで銅メダル獲得。引退後、2010年に陸上競技クラブ「NOBY T&F CLUB」を設立。2018年9月、スペイン・マラガで開催された世界マスターズ陸上競技選手権大会・M45部門・男子4×100mリレーで金メダルを獲得。

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