オーガニックにナチュール 自然派ワインこれがお薦め
エンジョイ・ワイン(5)
自然派ワインの人気が世界的に高まっている。消費者の健康志向に加え、独特の香りや味わいがワイン愛好家の好奇心を刺激しているようだ。かつては、「自然派ワインは味が今ひとつ」との声もよく聞かれたが、最近はそうした評判をあまり耳にしなくなった。「オーガニックワイン」や「ヴァン・ナチュール」など代表的な自然派ワインを解説するとともに、専門家お薦めのワインを紹介する。
「ワインショップ・エノテカGINZA SIX店」(東京・中央)では4月、店の入り口にオーガニックワイン・コーナーを設けた。フランスを中心に世界各国のオーガニックワインが約30種類。オーガニックワインを置くワインショップは増えているが、これほどの数をまとめて陳列している店は珍しい。
値段は2000~4000円が中心。店長の樋上亮さんは「『オーガニックワインありませんか』といった問い合わせが目立って増えていたため」と専用コーナー設置の理由を説明する。買い求めるのは女性客が多いという。「食全般で有機人気が高まる中、女子会などでオーガニックワインの存在を知り、興味を持つ人が増えているのではないか」と樋上さんは推測する。
オーガニックワインは農薬や化学肥料を使わずに育てた有機ブドウから造るワイン。ボトルに「オーガニックワイン」と明記するには、生産国の政府が定めたルールに従って生産し、正規の認証機関から認証を得ることが条件だ。
有機ブドウは残留農薬の心配がないだけでなく、土中の微生物の活発な働きなどで良質なブドウに育ち、ワインの味わいにも好影響を与えるとされる。実際、フランスなどの生産国ではかつて農薬が安易に使用された時期があり、それが土壌の悪化を招いてワインの質にも影響を与えたとの反省から、有機栽培に切り替える生産者が増えている。
味わいに関しては、「やさしい味わいで体全体にしみわたるような感じがする」(樋上さん)。そんな樋上さんの一押しが、スペインの「ジャン・レオン3055」。赤、白、ロゼとあり、どれも2500円(税別)と手ごろだ。
オーガニックワインと並んでよく耳にする「ビオディナミワイン」は無農薬、無化学肥料という点ではオーガニックワインと一緒だ。だが、太陰暦にのっとって農作業をしたり、独特の肥料を用いたりするため、しばしば「神秘的」とも表現される。
競売で1本1000万円以上の値が付く仏ロマネ・コンティや、仏ボルドー5大シャトーの1つであるシャトー・ラトゥール、仏シャンパン大手のルイ・ロデレールなど世界最高級ワインの生産者が相次いでビオディナミ農法に切り替えており、今後、さらに注目が高まりそうだ。
ブドウの栽培方法だけでなく、醸造方法も自然にこだわりたいというワイン愛好家の間で人気が急上昇しているのが、「ヴァン・ナチュール」。英訳すれば「ナチュラルワイン」、日本語なら「自然ワイン」だが、わかりにくいのはオーガニックやビオディナミと違ってきちんとした定義がないこと。
ワイン関係者の間では、培養酵母を添加する代わりに天然酵母を利用、酸化防止剤を使わない、ろ過しないなど、できる限り添加物や人の手を加えないで醸造したワインをヴァン・ナチュールと呼ぶ場合が多いようだ。ブドウの栽培方法は必ずしも無農薬、無化学肥料にこだわらないが、天然酵母を利用したり酸化防止剤を添加したりせずに高品質のワインを造るにはブドウの質がカギとなるため、実際にはオーガニックやビオディナミ農法を取り入れている生産者が多いという。
ヴァン・ナチュールに詳しいワインショップ「酒美土場」(東京・中央)オーナーの岩井穂純さんによると、ヴァン・ナチュールの味わいの一番の特徴は「口当たりが柔らかく、飲み心地がよいこと」だという。酸化防止剤を使わないため、ワインがボトルの中で適度に酸化するためと考えられている。高級ワインが、長期間の酸化熟成でまろやかな味わいに変化するのと同じ理屈だ。
また、天然酵母を使ったり、ろ過しないことでその酵母がワイン中に残存したりするため、味わいにうま味や複雑性が出るのも特徴だ。
岩井さんがお薦めのヴァン・ナチュールとしてまず挙げるのは、ドメーヌ・ナカジマ(長野県東御市)の「ペティアン・ナチュール・ロゼ 2017」。巨峰を使った微発泡ワインで、「巨峰のみずみずしい果実味が優しい泡とあいまって楽しくゴクゴクと飲めるワイン」。他には、スペインのパルティーダ・クレウスが造る「これぞヴァン・ナチュールというようなうま味たっぷり」の「ビネッロ・ブランコ」や、南アフリカのヨハン・メイヤーが醸す「熟したメロンのような果実味あふれる」味わいが特徴の「マザーロック・ホワイト2016」などもお薦めという。値段は2000~3000円台。
ヴァン・ナチュールはかつては、オフ・フレーバー(欠陥臭)のするものも多かった。約500種類のヴァン・ナチュールをそろえるワインショップ「ウィルトスワイン神宮前」(東京・渋谷)のオーナー中尾有さんは、その理由を「きちんとした醸造方法が確立されていなかったため」とし、「現在は醸造技術も多くの生産者の間で共有され、全体的にレベルが上がっている」と指摘する。
中尾さんのお薦めは「リンゴやミントのニュアンスがあり、蜂蜜の甘い香りも感じる」仏セバスチャン・リフォーの「レ・カルトロン・サンセール2013」。その他、グレープリパブリック(山形県南陽市)の「デラアンブラ2017」や、「まろやかで、ざくろや甘みのあるチェリーのようなチャーミングで深みのある味わいが自然派ワインの熟成のポテンシャルを感じさせる」という、仏ドメーヌ・ママルータの「グラン ・ド・ フォリー・ペティアン2014」などがお薦めだ。値段は2000~3000円台。
中尾さんは「ヴァン・ナチュールは土着品種を使ったり、その土地に住み着いた天然酵母を利用したり、あるいはその酵母の働きを止める酸化防止剤の使用を避けたりするため、土地の個性がワインに現れやすい。それが造り手の哲学とも相まって、ヴァン・ナチュールの魅力となっているのではないか」と語る。
(ライター 猪瀬聖)
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