ペットの猫も持っている? パスポート7つのトリビア
パスポート(旅券)は世界につながる扉だ。どの国のパスポートかにはよるが、一般にパスポートがあれば、自由に海外を旅できる。当たり前になったパスポートだが、パスポートが国際的に標準化され、手のひらサイズの小冊子の形を取るようになったのは20世紀と最近のことだ。今回は、パスポートにまつわるトリビアを7つ紹介しよう。
ミイラの顔写真
古代エジプトにパスポートのようなものが存在していたという記録はないものの、古代のミイラにパスポートが発行されたことはある。1974年、古代エジプトのファラオ(王)、ラムセス2世(紀元前1213年に死亡)のミイラが復元のためパリに運ばれる際、エジプト政府はパスポートを発行。中にはファラオの写真が貼られ、職業欄には「(故)王」と記載された。
女王の権利
もし、ラムセス2世の60年以上にわたる治世にパスポートが必要だったとしても、ファラオであるラムセス2世にパスポートは必要なかったはずだ。慣例的に、在位中の君主はパスポートが不要だからだ。英国女王がそうだ。英国王室の公式ウェブサイトには、「英国のパスポートは女王陛下の名において発行されるため、女王陛下はパスポートを所持する必要がありません」と書かれている。事実、英国のパスポートの表紙の裏面には、パスポートの所持者を「女王陛下の名において」自由に通行させることを国務大臣が要請した文が記載されているのだ。要するに、女王はパスポートそのものなのだ。
鳥にもパスポート
国境線は人間の都合で作ったものだから動物には無関係、とは限らない。なんと鳥にパスポートが必要な国がある。ハヤブサは、学名をFalco peregrinusといい、peregrinusは「放浪者」を意味する。だが、アラブ首長国連邦(UAE)ではハヤブサにもパスポートがあるのだ。鷹狩りがアラブ系遊牧民ベドウィンの重要な伝統文化であるUAEでは、猛禽類の中でもハヤブサは大変貴重な鳥だ。鷹狩りが狩猟の手段ではなくなった今も、スポーツとして人気があり、国民のプライドの源でもある。
文化的にも金銭的にも貴重なハヤブサには、常に密猟の危険がつきまとう。そのためUAE内のハヤブサが、鷹狩りの祭りや競技に参加するために移動するには、同国が発行する緑色のパスポートが必要なのだ。なお、ハヤブサのパスポートには、足輪に彫り込まれた番号と対応する識別番号が記載されている。人間と同様に、入国管理官の審査を受け、国から国への移動履歴を示すスタンプの押印、日付の記入もする。
EUではペットにも
一般にはあまり知られていないが、動物のパスポートはハヤブサに限ったものではない。米国では、ペットが州を移動する際に申請手続きが必要だ。欧州連合(EU)では、ペット用に「ペットパスポート」と呼ばれる表紙裏面にペットの写真が貼られた青い冊子がある。ペットパスポートがあれば、ペットの検疫の係留なしにEU加盟国間を飼い主とペットは行き来できるのだ。この制度は便利なので人気だが、英国はEUを離脱すると、このパスポートが使えなくなる可能性が高い。2018年10月に飼い主が数百匹の犬を伴い、EU離脱の可否を決める国民投票のやり直しを求めてロンドン市内をデモ行進した。デモはレファレンダム(referendum:国民投票)にちなんで「ウーファレンダム行進」と称した。
英国で馬にパスポートが必要な理由
英国の馬も、ある種の「パスポート」の取得が義務付けられている。目的は、人体に有害な薬物治療が施されている馬の肉が、誤って市場経由で人間の口に入らないようにするためだ。
米国では国内移動にもパスポート?
米国では、今後、国内を旅行するだけでもパスポートの提示を求められる人が出そうだ。2005年に成立した「運転免許証の発行基準に関する連邦法」(通称リアルID法)は、各州が発行するIDカードの統一基準を定めている。リアルID法では、法で定めたセキュリティー要件を満たしていないIDカードは国内飛行便に搭乗する際の身分証として認められないことになっている。つまり、州が発行するIDカードは、事実上の国民用IDカードとなったのだ。既に多くの州が同法に準拠したIDカードを発行しているが、カリフォルニア州やマサチューセッツ州など、対応が追いつかず同法の適用を延期せざるを得なかった州がある。2019年1月10日以降は、古いIDカードなど、同法に準拠したIDカードを持っていないと、国内便への搭乗でもパスポートの提示が求められるようになる。
道の横断に提示が必要な理由
現在の米国では、パスポートを保有する人が増えている。理由は様々あるが、大きな理由の一つが、2007年の法改正でメキシコやカナダなど、隣接する国に行く際もパスポートの携行が義務付けられたためだ。かつては穴だらけだった米国境も、現在は国境伝いの街の通りを渡るだけでもパスポートの提示が求められるほど管理が厳しくなっている。パスポートの証明書としての重要性は、生活の中で今後、ますます高くなっていきそうだ。
(文 Karen Gardiner、訳 山内百合子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年10月31日付]
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