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藤井一興 ショパンと安芸の宮島を結ぶピアノの詩魂

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NIKKEI STYLE

ピアニストで作曲家の藤井一興(かずおき)氏がフランスのバロック音楽からモーツァルト、ショパン、さらには安芸の宮島(広島県廿日市市)をテーマにした自作までをつなぐCDアルバムを出した。日本と欧州の異なる時代の様々な作品が、いかに一つの美意識に貫かれたアンソロジーに結実するのか。「コンセプト人間」を自任する音楽家の詩魂を訪ねた。

研ぎ澄まされたピアノの音色が月夜のさざ波のようにきらめき、チェロが感動の震えを響かす。藤井氏の「宮島の鳥居に波は震える」というチェロとピアノのための新曲だ。日本三景の一つ、世界文化遺産の安芸の宮島、厳島神社。「海にたたずむ大鳥居に触発されて書いた。日本文化をもっと世界に知ってほしいとの願いを込めた」と藤井氏は言う。

バロックからショパンを経て宮島に至る曲集

日本の雅楽風の音階とリズムを織り交ぜながら、独特の静けさと現代音楽の風味を醸し出すこの新曲。収めているのは10月25日リリースのCD「ショパン:ピアノ・ソナタ第3番~イリュミナシオン 光り輝く事~」(発売元:マイスター・ミュージック)。題名通り、ショパンのソナタがアルバムの中心を占める。宮島とショパンがなぜつながるのか。

収録曲は全7作品。自作以外はすべてピアノによる独奏曲だ。始まりはショパンでさえない。まずF・クープラン(1668~1733年)の「神秘的な防壁」「キタイロンの鐘」というロココ風の鍵盤曲2つ。次にJ・P・ラモー(1683~1764年)の「鳥のさえずり」。ここまでは仏バロック期の巨匠2人の作品だ。ルイ14世からルイ15世の在位中に頂点を極めたベルサイユ宮殿の音楽文化を提示したわけだ。

次に来るのはモーツァルトの「ピアノソナタイ短調K.310」。オーストリア生まれの古典派の天才がパリ滞在中、母を亡くす不幸の中で書いた傑作だ。続いて仏近代音楽の祖フォーレの「夜想曲第6番変ニ長調作品63」。そしていよいよショパンの「ピアノソナタ第3番ロ短調作品58」。最後に自作の宮島の曲。一見、脈絡がない。NHKの2008~12年の音楽テレビ番組「クラシックミステリー 名曲探偵アマデウス」に出演した経験もある藤井氏に謎解きをしてもらおう。

 「フランスでルイ14世の没後300年を記念する行事がたくさんあり、そのテレビ番組を見た」。藤井氏はこう語り、2015年のルイ14世没後300年がアルバムを作る契機になったことを明かす。着目したのが、水の景観を利用したベルサイユ宮殿の庭園だ。「世界各地の川や海の水がもたらす果てしないものに尊敬の念を抱く」と語る。

水に囲まれたフランスの城と宮島の大鳥居

さらにはロワール川の支流、シェール川をまたいで立つシュノンソー城にも注目した。ルイ14世がこの城を訪れたのは1650年。クリーム色の姿を水面に映す石橋のような城はルネサンス様式の傑作といわれる。絶対王制時代の栄華をしのばせるフランス屈指の名所だ。藤井氏は「水に囲まれた美しいシュノンソー城からも発想をもらった」と話す。

水のイメージを介してフランスの宮殿や城から安芸の宮島を連想するのは自然ともいえる。推古天皇の御代に創建された厳島神社を崇拝し、沖合に立つ大鳥居をはじめ神社を美しく整備したのが平清盛だ。「清盛は芸術の天才でもあった」と藤井氏。そして仏バロック音楽から始まり、それよりも古い日本文化を体現した現代音楽の自作に至るアルバム作りを進めた。

藤井氏は東京芸術大学在学中に渡仏し、パリ国立高等音楽院の作曲科とピアノ伴奏科をともに1等賞で卒業。さらにパリ・エコール・ノルマルのピアノ科を高等演奏家資格第1位で卒業した。仏20世紀現代音楽の巨人オリヴィエ・メシアン氏に作曲を師事するなど、フランスと深い縁を持つ。このため藤井氏自身を含め、今回のCDに収めた作品の作曲家はすべてフランスに関係している。

CDでは全体にアルペジオ(分散和音)を多用した作品が多く並んだ印象だ。さざ波や水の流れのような細やかな動きを表現するのに分散和音は合っている。藤井氏のピアノ演奏は繊細なタッチでアルペジオの一音一音を色彩豊かに鳴らしていく。クープランとラモーの小品は、きらびやかなアルペジオの流れに乗って優美な旋律が聴き手を夢幻の世界に誘い込む。そして最大の聴きどころになるのが、藤井氏と同様に他国からフランスへやって来た2人の作曲家、モーツァルトとショパンのソナタだ。

 ショパンの「ピアノソナタ第3番」について藤井氏は「フランスに留学する前から注目していた」と言う。フランス人の父とポーランド人の母との間にポーランドで生まれたショパン。フランスで音楽活動を続け、列強に分割された祖国へ帰ることなく没した。「肺結核を患っていたショパンは『ソナタ第2番』で生と死を表現し、『第3番』で愛と死を描いた。『第3番』は彼が最晩年に書いた最も熟したソナタだ」と藤井氏は指摘する。そして「モーツァルトの『ソナタイ短調』との関連性はあるに違いないと信じている」と話す。

古典派モーツァルトの影響をショパンに聴く

ショパンはロマン派の最たる作曲家だ。「ピアノソナタ第3番」も「バラード第1番」「スケルツォ第2番」などと並ぶほど、ショパン特有の甘美で哀愁を帯びた旋律に満ちている。藤井氏は「非常に多岐に富んでいる曲だが、実は(古典派の)モーツァルトにまさるほどに古典的なアプローチで作曲している」と指摘する。

10月5日、藤井氏は教授を務める東邦音楽大学の総合芸術研究所(東京・文京)で、CDに収めたモーツァルトとショパンのそれぞれのソナタを弾き比べてくれた。「どちらも分散和音の下降形」「ここに関連性がある」「イ短調をロ短調に移調すればこうなる」と語りながら弾き続けた。説明を通じて彼はショパンの「ソナタ第3番」が古典的なソナタ形式と3部形式、ロンド形式で構築されていることを改めて浮き彫りにした。

しかしCDを聴いてみると、藤井氏のショパン演奏はけして形式ばったものではなく、とてもロマンチックで叙情性に富んでいる。アルトゥール・ルービンシュタイン氏やマウリツィオ・ポリーニ氏らのこの曲の名盤と比べると、甘くしなやかで繊細な表現が目立ち、ショパンのもう一つの本質である騎士道風の勇壮さや高貴な美学がやや足りないくらいな気もする。だが、形の定まらない水のような感情の流れを古典の形式美の中に包む込んだ演奏は、このCDのコンセプトに見合った藤井氏の美学なのだろう。

人と海と神が一つにつながる日本の美を音に

CD最後の「宮島」の新曲は、終結部で横坂源氏の弾く人声のようなチェロと、自然の風や波のような藤井氏のピアノが、同じ緩やかなリズムでそれぞれの音を重ねていく。人と海と神が一つにつながる厳島神社の大鳥居という日本固有の宗教建築のあり方を藤井氏は音で表現した。叙情と幽玄の現代音楽だ。日本の美を真新しい目と耳で再発見するためには、一度は異質な西洋文化にどっぷり漬かる必要があるかのようだ。夏目漱石の小説「草枕」、西脇順三郎の詩集「旅人かへらず」など、日本人が洋行を経て、自国の伝統美に改めて目を向けて作品を創造した例は多い。

「僕は普通のピアニストとは違う。今回はそれがたまたま海や川だったが、まずアイデアが浮かび、それをクラシック音楽とどう結び付けるかを考える」。千載和歌集や新古今和歌集のように、撰者(せんじゃ)としての自身の作品を盛り込み、本歌取りの技巧も漂うアルバム。古今東西の様々な文化遺産をつなぐ藤井氏の詩魂が独自のアンソロジーと新しい音楽を生み出した。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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