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ベルリン音楽祭の挑戦 現代音楽の精髄に迫る

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秋に始まるコンサート・シーズンの開幕を告げるベルリン音楽祭。連邦政府の助成を受けたベルリン芸術祭公社が、ベルリン・フィルハーモニー財団との共催で企画する。首都の感性を磨き、未知の芸術表現を切り開く、世界最先端の音楽祭。8月31日から9月18日までの19日間、フィルハーモニーの2つのホールをメイン会場に、27公演が行われた。

今回のテーマは「リチュアル、セレモニー、アクション、シンフォニー」。どのように関連するのだろうか。ブルックナーの交響曲3番、4番、9番、(音楽祭の直後にはハーディング指揮、ベルリン・フィルによる5番も)と、マーラーの交響曲3番がラインアップの中心。現代音楽にウエートを置くベルリン音楽祭の枠組みで、後期ロマン派のモニュメンタルな交響曲群が集中的に取り上げられるのは珍しいが、これらの交響曲のルーツに宗教儀式的要素があったことは確か。リチュアルやセレモニー、神秘劇のアクションなどが交響曲へと昇華するプロセスを感得できたが、それだけではない。

超難曲や高度な儀礼音楽も

バレンボイムはベルリン州立歌劇場管弦楽団によるオープニング・コンサートに、ブーレーズの「ブルーノ・マデルナを追悼するリチュアル」を選んだ。8グループからなるオーケストラを会場に分散させて操る超難曲。後半のストラヴィンスキー「春の祭典」も変拍子を駆使した高度な儀礼音楽だ。

他方、クロージング・コンサートでは、エトヴェシュがルーツェルン・フェスティヴァル・アカデミーオーケストラを率い、シュトックハウゼンの「INORI(祈り)-2人のダンサーと大オーケストラのための儀礼」に挑戦。これらによって音楽祭のテーマの大枠が形成され、現代音楽の精髄としての「儀礼的なもの」が浮かび上がった。ちなみにブーレーズ作品を扱ったコンサートは4回、シュトックハウゼンも4夜におよんだ。

コンセプチュアルなテーマを音楽祭の縦糸として、そこに絡まる横糸は2本。ドビュッシー(1862~1918)没後100年と、ベルント・アロイス・ツィンマーマン(1918~70)生誕100年である。バーンスタイン生誕100年に世界が沸き立つなか、ベルリン音楽祭は独立不覊(ふき)を貫いた。上演機会に恵まれないツィンマーマンのオーケストラ作品が4夜にわたって紹介されたことに感謝したい。

なかでも9月7日のプログラムは衝撃的だった。自害の5日前に脱稿したツィンマーマンの遺作「私は振り返り、白日の下で行われた一切の虐げを見た」は、「2人の語り手とバス独唱とオーケストラのための伝道的アクション」と名付けられている。旧約「伝道の書」第4章とドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」から大審問官のシーンがテキストだ。ゲルギエフ指揮のミュンヘン・フィルをバックに、語り手たちとバスの壮絶なまでの存在感。絶望の淵をさまよう作曲家の悲痛な叫びに臓腑(ぞうふ)をえぐられた。バッハのコラール「われ満ち足れり」で唐突に終わるが、神の光は見えたのだろうか?

 救いのない世界に続いたのはブルックナーの9番。ゲルギエフは恣意的な解釈を避け、音楽を自然な流れにまかせた。ミュンヘン・フィルの重厚な弦楽の海に管楽器が溶け込み、同質的で豊潤な響きを醸成。どっしりと腰のすわった安定感に包まれた。アダージョ楽章の絶対的な落ち着きの中での霊的変容の妙。存在そのものの鼓動と呼吸に宇宙創造の秘儀を聴いた。ミュンヘン・フィルが培ってきたブルックナー伝統にもとらぬ大人の音楽に、魂が浄化された。

100分を超える最長の交響曲

賢明にも個我を抑えたゲルギエフのブルックナーに対し、ネルソンスはマーラー3番においてボストン交響楽団を自在に操り、才気煥発(さいきかんぱつ)ぶりを発揮した(6日)。ライプツィヒ・ゲヴァントハウス合唱団と同少年少女合唱団も好演。冒頭、コントラバス10本を駆って決然と歩む行進曲からして圧巻だった。第1楽章だけで30分、全曲で100分を超える最長の交響曲。壮大かつ多彩な世界が劇的に展開してゆく。

ネルソンスは随所に分析的な解釈を加え、ルーペでのぞくように細部を際立てるが、無機的な知性ゲームには陥らない。他方、憧れに満ちたメロディーでも表層の気分に流されることはない。ポリフォニーの万華鏡に興ずるうちに、天使の翼にのって大宇宙と一体化している自分と出会う。おののきをはらんでたゆたう終楽章の、しかし究極の安らぎの中で、マーラーの9番につながる霊感に何度も襲われた。ボストン響も絶好調だった。

フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮によるベルリン・フィルのプログラムは深い印象を焼き付けた。(13日)。1950年に初演されたツィンマーマンのヴァイオリン協奏曲には、第2次世界大戦に従軍した作曲家の記憶が生々しく刻まれている。第1楽章の激しい戦闘の音楽から一転、ファンタジア楽章がチェレスタの夢幻で始まるが、それもつかの間、「怒りの日」のモティーフを伴って銃撃戦の悪夢がよみがえる。深い絶望の音楽が死の世界へと沈む。ロンド楽章もまた変拍子の戦闘シーン。凄惨な描写音楽が救いを求めるのはルンバのリズムだ。現代物を得意とするカロリーン・ヴィドマンの独奏は、並外れた技量と表出力で難曲を自家薬籠中のものにしていた。

後半のプログラムはロトの知性とセンスが光るオリジナル。ドビュッシーの「管弦楽のための映像」(1912)の曲間にリゲティの管弦楽作品を挿入し、60分の緻密な交響組曲に仕立てあげた。スコットランド風の「ジーグ」の後にリゲティの「ロンターノ」(1967)が休みなしで続く。両者の冒頭の酷似には驚いた。音楽を構成する諸要素のうち、リゲティはリズムとメロディーを捨象し、音色(和声と楽器法)と強弱と緊張度を際立てる。後半では動きが止まり、笙(しょう)のような儀礼音楽の静寂へと集中。やはり休みなしにフランス風の「春のロンド」が続く。その空気感とリズムと音色の、何と新鮮なことか。

 少し間を入れてリゲティの「アトモスフェール」(1961)が始まると、まさに稀有(けう)な「気配」が漂う。ベルリン・フィルでしか醸し出すことのできない雰囲気だ。未知の音響表現を切り開いたリゲティ。技法の革新が目的ではない。実験でもない。精神的なもの、神聖なものの次元が新たに現成したのである。クライマックスはスペイン風の「イベリア」3曲。100年前のドビュッシーの革新性をも再認識した。聴衆の感覚を根本から刷新する達意のプログラミングと最高の演奏が合体した至福の一夜だった。

みずみずしい感性と知性が融合

旧知の曲を通して感覚が洗われ、魂が蘇生する経験。ドヴォルザークの「レクイエム」が、ヘレヴェッヘの斬新な感性によって別の曲のように立ち現れた(11日)。手兵コレギウム・ヴォカーレ・ゲントとベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団との共演。限りなく繊細で透明な音響から実に意味深い世界が広がる。民族色を強調せず、ロマン主義的な解釈にも傾かない。一方で教会音楽の純度を徹底してキープしているのだが、他方では、いかにドヴォルザークがワーグナーの管弦楽法やモティーフを自作に活用していたかが手に取るように分かる。みずみずしい感性と透徹した知性が融合したヘレヴェッヘの音楽。再現芸術の創造性は無限だ。

音楽祭を締めくくったのはシュトックハウゼンが観念的に設計した芸術宗教「INORI」(18日)。この作品は「人類文化の一部として私が受容した宗教性の結論である。すべての世界宗教は私にとって人間文化に属するが、私自身はそれらに関与しようとは思わない。しかしすべての儀礼的なものは、私にとっては最高の価値を持っている」。

この発言から明白なように、シュトックハウゼンは全宗教儀礼に共通する要素を抽出して記号化し、パントマイムと楽音の型(形式)として再構築した。それは宗教性というよりも、西洋合理主義の帰結である。と同時に、近代啓蒙の限界をもあらわにしている。身ぶりと音楽はほぼ同期して進行するが、いつもすでに何らかの作為的な模倣であって、魂の奥底からの表現ではない。

肉体を欠いた物的身体、魂を欠いた抽象的知性。筆者の偽らざる実感である。とはいえシュトックハウゼンは、あたかも新興宗教の教祖のように、現代音楽ワールドではカリスマであり続けている。今年の音楽祭の白眉とされたINORI。だが、歌舞伎や能の身体性と様式美を知る者にとっては、いささかむなしさの残る儀礼パフォーマンスであった。

(音楽評論家 藤野一夫)

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